本書は、学部生からプロの研究者までのあらゆる学徒を対象に、アカデミック・ライティングに必要な要素を徹底的に要素分解し、プラクティカルに解説する。初学者が本書を通して自力で論文が書けるようになること、中級から上級までの院生や研究者が、より優れた論文を短時間でシステマティックに書けるようになることが目標だ。
困ったことに、人文学の論文にはきまったフォーマットがない。自然科学系の論文にはきまったフォーマットがあり、客観的な事実の記述が多くを占める。ところが人文系の論文では、冒頭から自分の言葉で語り始め、数万字を語りつづけなければならない。現在の大学教育でも人文系のアカデミック・ライティングは、カリキュラム化できておらず、書けるようになる人はなるし、ならない人はならないという状況が続いている。だが、学術論文を書くために必要な要素を分解してみると、実態は再現可能な知識と技術がほとんどであることがわかる。
本書を読めば、論文のなんたるかを理解し、自分の文章が学術的に価値をもつ論文として理解されるためにはどのようなトレーニングを積めばいいかを把握することができるはずだ。
論文を書くにあたり、まずは論文がどのような書き物かを概念的に理解しておく必要がある。
論文とは、「ある主張を提示し、その主張が正しいことを論証する文章」である。まず、論文は主張しなければならない。ここでは、日本語の「主張」という言葉のイメージから離れるために、英語の「アーギュメント(argument)」を用いて、この語を定義していく。
アーギュメントとはまず、論文の核となる主張内容を一文で表したテーゼである。「テーゼ」は、「論証が必要な主張」と定義する。論文中には大小いくつものテーゼが含まれるが、もっとも重要な大テーゼがアーギュメントである。
『12週間でジャーナル論文を書く』の著者であるウェンディ・ローラ・ベルチャーは、論文が学術誌で不採用になる最大の理由は、アーギュメントがない、あるいは適切に表現できていないことだといっている。つまり、多くの論文はなにかしら主張しているつもりでいて、アーギュメントをもつことに失敗しているのだ。
どんな主張が学問的なアーギュメントと認められるのか、『アンパンマン』を題材に考えてみよう。
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