ななつ星への道
ななつ星への道
Stairway to Seven Stars
ななつ星への道
出版社
出版日
2024年11月15日
評点
総合
3.7
明瞭性
4.0
革新性
3.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

日本では、豪華列車の周遊旅行のスタイルが人気を博している。列車の旅そのものを楽しむという、その先駆にして代表が「ななつ星in九州」(以下、ななつ星)だ。

ななつ星の旅では、九州各地をゆったりと巡りながら、九州の名店はじめ一流レストラン、料理店のメニューを堪能することができる。客室は木とファブリックを基調にしたクラシックなデザインが施され、柿右衛門窯をはじめとする有田焼の工芸品が車内を華やかに彩っている。3泊4日のコースは100万円を優に超えるが、それでもなお高い人気を誇り、乗車を叶えるには基本的に抽選を要する。

なぜ、これほどの支持を集め、しかも収益を上げられるのか。その背景には、様々な困難を乗り越えた関係者たちの並々ならぬ熱意と奮闘がある。本書を読むと、ななつ星の開業時にJR九州の社長として「世界一の列車」を目指してきた著者の志が、実は何よりの推進力となっていたことがよくわかる。構想段階から、列車のデザイン、製造、クルーの採用や研修に至るまで、ななつ星実現までのリアルストーリーに引き込まれるだろう。

旅の途上、そして終点の「フェアウェルパーティ」で感動の涙を流す乗客がほとんどだという。それほどの感動を生み出す秘密は何なのか。その要諦を、本書を通じて知ることができる。また、このブランドをこれほどまで輝くに至らしめた方法や考え方には、どんな仕事にも応用できるヒントが詰まっている。「人がつくり出す手間暇こそが、人間の感動する大切な要素である」。著者のこのメッセージをはじめ、心に響く言葉に数多く出合える一冊だ。

ライター画像
大賀祐樹

著者

唐池恒二(からいけ こうじ)
九州旅客鉄道株式会社 相談役。1953年4月2日生まれ。1977年、京都大学法学部を卒業後、日本国有鉄道(国鉄)入社。1987年、国鉄分割民営化に伴い、新たにスタートした九州旅客鉄道(JR九州)において、「ゆふいんの森」「あそBOY」をはじめとするD&S(デザイン&ストーリー)列車運行、博多~韓国・釜山間を結ぶ高速船「ビートル」就航に尽力する。また、大幅な赤字を計上していた外食事業を黒字に転換させ、別会社化したJR九州フードサービスの社長に就任。2002年には、同社で自らプロデュースした料理店「うまや」の東京進出を果たし、大きな話題を呼んだ。2009年6月、JR九州代表取締役社長に就任。2011年には、九州新幹線全線開業、国内最大級の駅ビル型複合施設「JR博多シティ」をオープン。2013年10月に運行を開始し、世界的な注目を集めたクルーズトレイン「ななつ星 in 九州」は、その企画立案から運行まで陣頭指揮に当たった。代表取締役会長就任後の2016年には同社の悲願であった株式上場を実現。2023年より現職。また九州観光の発展のため、「九州観光戦略」の実行組織である九州観光機構の会長も務める。

本書の要点

  • 要点
    1
    ななつ星の成功要因は、次の5つから成る。「思い切り心ときめく車両」「ほおぉうっと唸る物語」「誰も体験したことがないおもてなし」「わがままで傲慢な、販売戦略とブランディング」「変幻自在の広報宣伝」である。
  • 要点
    2
    著者らは「日本一」ではなく、あえて「世界一」の列車を目指した。この志が列車に関わる全ての人間の魂に火をつけた。
  • 要点
    3
    クルーの心のこもった接客と、地域の人々と乗客の熱意に加え、ななつ星を作り上げた人々の「氣」が感動を生み出し、ブランド力を高めている。

要約

世界一の列車の夢

「世界一」が正夢になる

「ななつ星in九州」は、世界の旅行業界の権威ある雑誌『コンデナスト・トラベラー』誌で、2021年から2023年の間、「リーダーズ・チョイス・アワード」のトレイン部門で3年連続「世界一」に輝いた。目標としてきた「オリエンタル・エクスプレス」に肩を並べるだけでなく、それをも超えたのである。

ななつ星を体験したお客さまだけが集まる同窓会では、東京のホテルニューオータニのホールに500名以上の参加者が集まる。それほどの力を持つななつ星は、どのような歩みを経てきたのか。JR九州の社長(現在は相談役)としてななつ星を作り上げてきた唐池恒二が語っていくのが本書だ。

「諦めたら社長失格」
LanceB/gettyimages

「九州内を巡る豪華寝台列車をつくればヒットする」。ななつ星のアイデアの発端は、唐池が30代半ばの頃に友人にもらった言葉にある。

時を経て2009年6月、九州新幹線全線開業の準備で忙しい時期、唐池は第4代JR九州の社長に就任した。幹部が集まる会議で、九州内を巡る豪華な寝台列車を作ることを提案する。そのときは、当時運輸部長だった古宮洋二氏(現・同社代表取締役社長)などから反対意見が出された。だが、九州新幹線全線開業という同社悲願の夢を叶えたのちに新たな夢をつなぐことは、経営者として最も大切なことだ。唐池は「諦めたら社長失格」という強い信念を持っていた。

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要約公開日 2025.03.16
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