歴史学はこう考える
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ジャンル
出版社
出版日
2024年09月11日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

「昔の偉い人が、嘘を書いてたらどうするの?」。歴史の勉強をするとき、人はだれしも一度はそう考えるのではないか。要するに、今ある歴史は昔の誰かが書き残したことをもとにしているのなら、その誰かが嘘をついていたらその歴史は嘘になるのでは?という素朴な疑問だ。現に、昔の教科書に載っていることと今の教科書に載っていることは変わったりもする。これはそのまま次のような疑問に発展する。「歴史なんて嘘っぱちじゃないの?」。

本書は、そんな疑問に答える珍しい一冊だ。歴史の専門家である著者が、実際のところ歴史家は何をやっているのか、歴史学の本や論文はどのように書かれているのかを詳しく解説しているのである。実際のところ、歴史が書かれるまでのプロセスはそう単純ではない。歴史の専門家である歴史家には、それ特有の技術が備わっている。歴史が「嘘っぱち」にならないような仕組みがあり、膨大な史料と研究の蓄積によって、私たちは通史というかたちで歴史を知ることができるのである。

歴史を書く人たちの技術を知ることは、歴史を読む側である多くの読者にとって有用である。何かの正当性を主張するとき、歴史が引用されることはよくある。だが、その歴史は本当に「役立てて」いいものなのだろうか。歴史家が歴史家であるための一線をのぞき見ながら、歴史の役割について考える機会を持ってみてはいかがだろうか。

著者

松沢裕作(まつざわ ゆうさく)
1976年生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程中退、博士(文学)。東京大学史料編纂所助手・助教、専修大学経済学部准教授をへて、慶應義塾大学経済学部教授。専門は日本近代史、史学史。著書に『明治地方自治体制の起源』(東京大学出版会)、『重野安繹と久米邦武』(山川出版社)、『自由民権運動』(岩波新書)、『日本近代村落の起源』(岩波書店)、『日本近・現代史研究入門』(岩波書店、共編)などがある。

本書の要点

  • 要点
    1
    歴史家が歴史を論じる際に用いる根拠を「史料」とよぶ。歴史家はそれぞれ異なる思想や関心を持っているが、史料を正確に読み解くという作業を通じて、思想性や恣意性はある程度制限される。
  • 要点
    2
    歴史学の祖と呼ばれるランケは「歴史学は、史料にもとづいてさえいれば、役に立たなくてもいい」という重要な一線を引いた。それは歴史学におけるギリギリ最低限のラインといえるだろう。
  • 要点
    3
    史料に書いてあることがどれだけ信用できるかを考えるのが史料批判である。歴史家が何をやっているかを知る手掛かりは、引用と敷衍という手法にある。

要約

「過去」の専門家

歴史家は何をしているのか
ogichobanov/gettyimages

歴史家という職業はいったいどのようなものなのだろうか。歴史家は過去に起きたことを、読者に向けてわかりやすく書く。こうした理解は誰にでも共有されているものだろう。だが、よく考えてみると歴史について語ったり述べたりするのは、別に歴史家でなくてもできることだ。政治家だって「我が国の歴史は~」と語るし、もっといえば私たちも普段から「一年前」や「先週」といった形で過去について述べている。こうした行いと、歴史家のやっていることは一体どこが違うのだろうか。

歴史家について、一般の人はこんなイメージを持っているのではないか。図書館で史料に埋もれて現代社会には興味のない、学問一筋の研究者。従軍慰安婦や南京大虐殺といった論争のある出来事について発言し、「右翼」「左翼」といったレッテルの張られる「イデオロギー」的論争の場に参加する人。テレビ番組で過去についての面白い話を提供してくれる人——。

こうしたイメージはどれも間違っているわけではないが、「歴史家の仕事とは」という問いの答えになるわけではない。

歴史家と呼ばれる人は、一枚岩ではなく、それぞれやりたいこともバラバラだ。けれども、歴史の専門家である歴史家には、専門家なりの仕事の仕方というものがあるはずだ。歴史の専門家が過去を振り返るという行為の中で、何が「歴史家っぽい」作業なのかというのを考えるのが本書のテーマである。

歴史は案外怖いものだ。ある立場を正当化するのに使えるし、反論の材料にもなる。歴史は結構「役に立って」しまうのだ。だから今一度、歴史家の作業プロセスを理解することで、こうした際限のない論争が繰り返されるのを防げるかもしれないのである。

【必読ポイント!】 歴史家にとって史料とは

過去の証明書

歴史学の入門書にはたいてい、「史料」というものが歴史学には不可欠だと書かれている。歴史家が過去について何かを説明するとき、その根拠になる情報源が史料だ。たとえば、昔の政治家が何をしていたかを知るためにその政治家の日記や手紙を読んだり、ある地域の特性を調べるために土地の売買契約書を検討したりすることもある。

では、そもそもなぜ根拠が求められるのだろうか。我々は日常生活において、結構な割合で根拠なしにものを言う。たとえば「山田がぼんやり村に土地を買ったらしいよ」「へー」といった会話をするときに、聞き手が「その主張を裏付ける根拠はなにか」と問うことはまれだ。一方、不動産仲介業者の事務所で一人の社員が「山田さんはぼんやり村に五ヘクタールの土地を買うことに決めた」と上司に報告したとする。この場合上司は「へー」という返事ではすませずに、特定の手続きに従って書類が作られていくはずだ。要するに「土地を買った」という事実を、時間が経った後も証明できる、根拠となる書類が残される。その典型が売買契約書となるが、この書類が「根拠」として提出されるのは、一体どういう場面だろうか。

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要約公開日 2025.03.08
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