読めば分かるは当たり前?
読めば分かるは当たり前?
読解力の認知心理学
読めば分かるは当たり前?
出版社
出版日
2025年01月10日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

日本で生まれ育った人なら、日本語くらい読めて当たり前——。そんなふうに言われることがあるが、実際には「日本語の文なのに読んでも意味が分からない」「内容が頭に入ってこない」ということは少なくない。では、ある文章を「読んでも分からない」とき、どうしたら「読んだら分かる」に変えることができるだろうか。改めて考えてみると、「読んだら分かる」は無意識に起きるため、意識的にその状態に到達しようとすることは難しく感じられる。

本書『読めば分かるは当たり前?』は、読解プロセスを段階に分けて解説しながら、どこに問題があるのかを考えることで、「読んでも分からない」の正体を示そうとする。一口に「読んでも分からない」と言っても、文字の認識がうまくいっていない場合もあれば、知らない単語でつまずいている場合、文同士のつながりが把握できていない場合もある。普段は一瞬のうちに、無意識に起こる読解のプロセスを、細かく分けて捉え直すことで、読解がうまくいかないときにどうアプローチするべきなのかも明確になっていく。

つまずくポイントは様々であるため、誰にでも有効な読解力を上げるための特効薬は存在しない。だからこそ、やみくもに「読解力向上法」を試すよりも、自分が読解のどの段階につまずいているかを意識しながら、その段階に応じたアプローチを選ぶことが重要だ。その際、「読解力の地図」を示そうとする本書は、大きな助けになることだろう。読解力を本質的に捉え直したいすべての人にとって有益な一冊だ。

ライター画像
池田友美

著者

犬塚美輪(いぬづか みわ)
東京都出身。東京大学教育学部・東京大学大学院教育学研究科で教育心理学を学び、日本学術振興会特別研究員(PD)、東京大学先端科学技術研究センター研究員、大正大学を経て東京学芸大学教育学部准教授。研究テーマは、読み書きの心理プロセスと指導法開発。著書に『論理的読み書きの理論と実践』(北大路書房)、「生きる力を身につける——14歳からの読解力教室』(笠間書院)、『認知心理学の視点——頭の働きの科学』(サイエンス社)がある。

本書の要点

  • 要点
    1
    読解には、第一の目的地である「表象構築」と、そこから枝分かれする第二の目的地である「心を動かす読解」と「批判的読解」の3つの目的地がある。
  • 要点
    2
    表象構築に至るまでには、文字の同定、単語の同定、単語間の関連理解、文間の関連理解と、たくさんの山を越えなければならない。
  • 要点
    3
    読解のための方略は「理解補償方略」「内容学習方略」「理解深化方略」の3つに整理できる。これらを念頭に、それぞれの読解方略がどこで役立ちそうか考えながら実践してみるといい。

要約

3つの読解

第一の目的地:「表象構築」
Yutthana Gaetgeaw/gettyimages

「読解力」は多様な概念であるが、本書はこれをざっくり3つに分けて整理し、目指すべき目的地の位置付けを確認していく。

3つの目的地のうち、第一の目的地は「表象構築」だ。心理学では理解するとはどういうことかを、「表象」という言葉を使って表している。「カレーライス」と聞けば頭の中に「カレーライス」が浮かぶように、文章を読んだとき、私たちは情報や物ごとを頭の中に再現し「表象」を作る。これを「表象構築」と呼ぶ。

表象構築には2つの異なるレベルがある。第一のレベルは、書いてある内容が整理されている「テキストベース」の理解だ。

もうひとつのレベルである「状況モデル」では、読み手がもともと知っていることを活用しながら、読んで推論した内容と組み合わせて「世界の再現」が行われる。たとえば「煩悩の数だけ鳴る寺の鐘の音」を聞いたという文章を読んで、「12月31日のことだ」と分かるのは「状況モデル」を作れたからだ。煩悩の数だけ鳴る鐘とは、除夜の鐘のことだということを知っていて、そのことに思い至れば、文中に日付の情報がなくても大晦日の出来事だと推察することができる。

読んだ内容を記憶し、別の場面で活用するためには、状況モデルの表象が必要となることが多い。だとすれば、読解の最初の目的地は、状況モデルの表象を構築することだといえる。読むことを通して自分の知識を拡張し、新たな状況下でその知識にアクセスできるように良いつながりを作っておくことが読解の第一の目的地だ。

第二の目的地:「心を動かす読解」「批判的読解」

第一の目的地である表象構築を経由して向かう第二の目的地には「心を動かす読解」と、あえて納得しないことを選ぶ「批判的読解」の2種類がある。どちらも「状況モデル」を構築する点は共通しているが、「心を動かす読解」と「批判的読解」では、そこに異なる要素を追加してバージョンアップしたモデルを作るという点が異なっている。

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要約公開日 2025.04.18
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