世界は行動経済学でできている
世界は行動経済学でできている
世界は行動経済学でできている
出版社
出版日
2025年03月11日
評点
総合
3.7
明瞭性
4.0
革新性
3.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

昨日と今日で言っていることが変わる上司にイライラ。働いていると、こんな経験をしたことがないという人のほうが少ないかもしれない。なぜそんな理不尽があちこちで起きているのか。そのヒントを教えてくれるのが、行動経済学の知識をわかりやすく解説した『世界は行動経済学でできている』だ。

本書によれば、「昨日と言っていることが変わる上司」には悪気はまったくない。「後知恵バイアス」という心理効果によって、人は過去の記憶を都合よく書き換え、「最初からそう思っていた」と信じ込んでしまうことがあるのだ。これは無意識に起こることで、本人は理不尽なことを言っているつもりはまったくない。

行動経済学の知識があれば、こんな事態に直面しても、「後知恵バイアスのせいかもしれない」と冷静に対応できるようになる。この場合であれば、相手の発言を記録する仕組みを作っておけば、「言った言わない」のトラブルを防ぐことができるだろう。また、「人間にはバイアスがあって、完璧ではないのだ」と理解しておくことも、余計なストレスを減らすことに役立つはずだ。

本書は、こうした心理的バイアスが私たちの日常やビジネスの現場にどう作用するかを、豊富な事例とともに解説している。人間の心理の癖を知り、怒りやモヤモヤを減らしたい、意思決定に役立てたいと思う人にとって、本書は有益な一冊となるだろう。

ライター画像
池田友美

著者

橋本之克(はしもと ゆきかつ)
行動経済学コンサルタント/マーケティング&ブランディングディレクター
東京工業大学卒業後、大手広告代理店を経て1995年日本総合研究所入社。自治体や企業向けのコンサルティング業務、官民共同による市場創造コンソーシアムの組成運営を行う。1998年よりアサツーディ・ケイにて、多様な業種のマーケティングやブランディングに関する戦略プランニングを実施。「行動経済学」を調査分析や顧客獲得の実務に活用。
2018年の独立後は、「行動経済学のビジネス活用」「30年以上の経験に基づくマーケティングとブランディングのコンサルティング」を行っている。携わった戦略や計画の策定実行は、通算800案件以上。
昭和女子大学「現代ビジネス研究所」研究員、戸板女子短期大学非常勤講師、文教大学非常勤講師を兼任。
『世界最先端の研究が教える新事実行動経済学BEST100』(総合法令出版)、『ミクロ・マクロの前に今さら聞けない行動経済学の超基本』(朝日新聞出版)などの著書や、関連する講演・執筆も多数。

本書の要点

  • 要点
    1
    人は選択肢が多すぎると決断を先送りしがちになる。行動経済学ではこれを「決定麻痺」と呼ぶ。
  • 要点
    2
    事前にそれを予見していたかのように思い、自分の考えが正しいと考えることは「後知恵バイアス」と呼ばれる。これは、実際に起きたことによって、自分の記憶が書き換えられ、「そうなるとわかっていた」と思いたがる傾向だ。
  • 要点
    3
    「現在志向バイアス」により、人は先の利益よりも目の前の利益を優先しやすい。長期的な目標を達成するには、短いスパンで具体的な計画を立てることが有効だ。
  • 要点
    4
    自分の意見が常識的で多数派だと思い込む傾向は、「フォールスコンセンサス効果」と呼ばれる。この心理を理解していないと、自覚のないまま横暴な態度をとってしまいかねない。

要約

【必読ポイント!】 誰もが相手を都合よく動かしたい

町中華は行動経済学のプロだった?

テレビ番組で「メニューが多すぎる中華料理店」が話題になったことがある。顧客のリクエストに応えたりしていくうちに、現在のメニューは400種以上にもなっているそうだ。一方で、創業時からの看板メニューは「ちゃんぽん」と決まっている。大量のメニューとおすすめの看板メニューの組み合わせは、実は行動経済学的に理にかなった戦略だ。

私たちは日常生活の中で、さまざまな条件を比較検討しながら決定をしている。しかし、選択肢が多すぎると、何を選べばいいかわからなくなり、決断を先送りするという選択をしがちになる。行動経済学では、選択肢が多すぎることでその選択を先送りすることや、選択すること自体をやめてしまうことを「決定麻痺」と呼ぶ。

ある研究によれば、人間は1日あたり最大で3万5000回もの意思決定をしている。決断することが多すぎて嫌になってしまう現象は「決断疲れ」と呼ばれ、「決定麻痺」の前段階として陥りがちな状態として知られている。

商品を売る企業にとっては、「決定麻痺」や「決定疲れ」を見越して、自分たちに有利な形で顧客に判断させることが大切だ。「メニューが多すぎる中華料理店」は、定番メニューで「決定麻痺」対策をしながら、大量のメニューの中から「選ぶ楽しみ」も提供している、かしこい戦略だといえる。

「とりあえず生ビール」に同意してしまうわけ
mapo/gettyimages

同僚や友人たちと居酒屋に入って飲み物を決めるとき、「とりあえず生ビールで」と言う人がいると、次々にみんなが生ビールを注文しはじめるという場面に出くわすことがあるはずだ。同様に職場の会議やミーティングで、誰かの意見に内心反対だったとしても、複数のメンバーが賛同しはじめたら、自分は反対だと言い出しづらく感じるかもしれない。集団の中で浮かないために意見が言えないという状況では、行動経済学でいう「同調効果」が働いていると考えられる。

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要約公開日 2025.04.11
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