ある人は、1on1ミーティングにてマネージャーから「気になっていることはないか?」と聞かれた。とくに思いつかなかったが、黙っているのも良くないと思い、「しいて言えば……」と前置きして回答。するとマネージャーは「すぐ解決しよう!!」と意気込み、部門長や他部署まで巻き込んで、ちょっとした騒ぎになってしまった――。
このように、なんでもすぐ解決しようとする職場カルチャーや行動様式には、さまざまな弊害がある。
まず、メンバーの心理的安全性の低下だ。この担当者はおそらく、もう二度とマネージャーに本音やちょっとした気がかりなことを伝えなくなるだろう。また、何でもすぐ解決しようとする組織カルチャーは、マネージャーからもメンバーからも深く考えて行動する習慣を奪う。問題やトラブルが発生しても、うわべだけの対策しか講じられず、根本原因はいつまでも解決されないままだろう。
こうした弊害は、「ネガティブ・ケイパビリティ(Negative Capability)」がないことによって起こる。本書では、ネガティブ・ケイパビリティを「すぐ解決しようとしない行動特性および能力」と定義して議論していく。
ネガティブ・ケイパビリティの真逆の概念に、すぐ解決する能力や体制を意味する「ポジティブ・ケイパビリティ(Positive Capability)」がある。
ポジティブ・ケイパビリティとネガティブ・ケイパビリティは、いずれか一辺倒ではうまくいかない。その時々の課題にあわせて使い分ける必要がある。
もちろん、素早く行動したり問題を解決したりする行為はすばらしい。しかし、じっくりものごとを観察し、人々と対話をし、良好な関係を構築しながら真の原因を特定したり、意外なアイデアや能力と出会って新たな解決方法を見つけたりする探索こそ、VUCA時代においては求められるのではないだろうか。
なにより、ポジティブ・ケイパビリティ一辺倒の仕事と社会は、息苦しくて楽しくない。仕事へのやりがいや楽しさのバリエーションを増やす意味でも、ネガティブ・ケイパビリティにも目を向けてみてはどうだろう。
黒部みゆきはあるスタートアップ企業に中途入社したばかりだ。
今日はマネージャーである薗原(そのはら)との1on1ミーティング。最後に薗原から「ほかに、黒部さんが気になっていることとかありますか?」と尋ねられたが、とくに思いつかない。とはいえ、何も言わないわけにもいかないからと「あえて言うならば……」と前置きし、同じプロジェクトのメンバーの鶴田(つるた)の攻撃的な言動が気になると話した。尖った若手にありがちな行動だと思うし、騒ぐほどのことでもないとは思いながら。
だがその話を聞いた薗原は表情をこわばらせ、「それは問題だな、すぐ解決しよう!」といい、すぐに会議室を出て行ってしまった。
翌日、黒部はプロジェクトメンバーの数名から聞かれた。「ねえ、いったい何があったの。薗原さんから、鶴田さんのことについてあれこれ聞かれたんだけれども……」
「この会社の1on1ミーティングでは、迂闊なことは言えないな……」と感じた黒部だった。
目先の話しかしようとしない、なおかつ、その場で挙がった問題や課題をとにかく即解決しようと躍起になる1on1ミーティングには、5つの弊害がある。心理的安全性の低下、メンタルヘルスの悪化、チームワーキング不全、問題解決能力の低下、マネジメント不全だ。
黒部はある日、マネージャーの薗原から、新たな仕事を任せたいといわれた。同じチームのリーダーである矢作にもフォローしてもらえるそうだ。
この機会に成長したい。そう意気込んで新しい仕事に着手したものの、薗原は新しいアイデアをすぐさま否定し、従来のやり方に合わせることを強要してきた。矢作は事細かに自分のやり方を指示した挙句、「僕がやったほうが早いですから」と黒部の仕事を巻き取り、成果を自分の手柄にしてしまった。
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