スタートアップとは、短期間で急成長をめざす一時的な組織体を指す。いくら新興企業であっても、着実な成長をめざすものはスモールビジネスに位置づけられる。また、ビジネスの成長の上限が決まっているならば、いくら先端的なテクノロジーを駆使していても、スタートアップとは呼べない。つまり、スタートアップかどうかの判断基準は、急成長をめざしているかどうかに尽きる。
現在、スタートアップは破竹の勢いで成長し、国や大企業、ベンチャーキャピタルからの支援も増えてきている。その結果、成功するスタートアップを生み出すための仕組みや考え方が体系化されつつある。
挑戦や失敗を許容できない空気が日本に広まる前に、スタートアップによるイノベーションが増えれば、より健全な社会が実現でき、次世代に希望のバトンをつなげられる。こうした著者の思いのもと、本書ではスタートアップの初期において重要な「反直観的」な真実を明らかにしていく。
スタートアップにとっての優れたアイデアとは、不合理なアイデアである。もしも合理的な優れたアイデアなら、急成長が見込めるため、Googleのような巨人たちにたちまち攻め込まれてしまうだろう。
そこで、限られたリソースでの戦いを強いられるスタートアップは、他人から見ると不合理、つまり「一見悪いように見えて実はよいアイデア」を選ぶ必要がある。これをピーター・ティールは「賛成する人がほとんどいない大切な真実」と呼ぶ。ただし、現実には「ただ単に悪いアイデア」がほとんどであることを心に留めたい。
もう一つの反直観的な事実は、「難しい課題のほうがスタートアップは簡単になる」というものだ。これを物語る事例は、社会的課題を解決する事業のスタートアップや、高度な技術を要するハードテックスタートアップである。
彼らが立ち向かうのは、直観的にはつい避けたくなるような難題だ。そうした難題を解決しようとする事業には、社会的意義に共感した人たちからの支援が押し寄せるだけでなく、そのミッションに心惹かれた優秀な人材が集まってくる。また、技術的に難しい課題を達成しようと、優れた技術者はいっそう奮い立たせられるはずだ。
周囲を巻き込むうえでのポイントは、大胆でありながらも、ぎりぎりのラインで実現可能なアイデアだと明示することである。
スタートアップのよいアイデアは、人に説明しにくい。一般には一言で表せるほどシンプルで、わかりやすいアイデアが好まれる。しかし実際には、シンプルさとわかりにくさは両立し得るのだ。例えば、配車サービスUberは「見知らぬ他人の車をスマートフォンで呼び出して相乗りする」とシンプルに説明できる。ただし、そのコンセプトが画期的であるために、このサービスが登場する前ならば、その内容は理解されにくかっただろう。
よいアイデアは既存のカテゴリにあてはまらないことが多い。だからこそ顧客の真のニーズをとらえた新しいカテゴリを創出できれば、そのアイデアは急成長の種になってくれる。
こうした説明しにくいアイデアを探すには、一時的な流行を追うのではなく、多くの人が見落としている課題に「気づく」ことが第一歩となる。チャットツールSlackを開発する発端となったのは、創業者が膨大な量のメールが届く状況において、このシステムの破綻に気づいたことである。よいアイデアは、考えてひねり出すものではなく、自分の体験から生まれてくるものであり、こうした「気づき」は周囲に転がっているはずだ。
通常の競争においては、1位と2位は僅差でゴールすることが多い。しかし、スタートアップでは例外的に、1位か2位かで数十倍の差が生じる。2012年にピーター・ティールが投資したFacebookが上場し、彼はなんと1000倍以上のリターンを得たという。しかも、Facebook一社の上場で生まれた利益は、その年のベンチャーキャピタル業界全体の利益の35%に値するほど、ずば抜けていた。よい投資家はヒットではなく、ホームランをめざすべきだと心得ている。そのため、スタートアップがベンチャーキャピタルから資金を調達し、一気に成長をめざすなら、大きく化ける可能性を秘めたビジネスを追求することが重要となる。
これまで述べてきたように、スタートアップのアイデアは反直観的で、周囲の理解を得がたいため、ことごとく否定されがちだ。しかし、だからこそ
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