世界の大きな動きは、富や権力、影響力の極端な集中に向かっている。世界のビリオネアを毎年公表しているフォーブス誌によると、わずか1810人のビリオネアの純資産が、世界の全人口74億人の総所得の8.9%に相当するという。これほどまでに世界の富が一握りの人間に集中すると、残る人々の生活や人権が脅かされるのは歴史がすでに証明している。こうした変化をいち早く経験し、大きな光と影を生んでいるのがアメリカだ。
現在、アメリカでは新興企業が急成長を遂げ、科学技術の進歩と相まって、次々にイノベーションを生み出している。その一方で、工場閉鎖により失業に追い込まれる人が後を絶たず、貧困と暴力の連鎖が続き、銃の乱射事件や麻薬中毒者の増加が後を絶たない。
これらの変化があまりに急激であるために、悪影響を軽減する動きは全くといっていいほど追いついていないのも事実だ。現に、1980年代以降、上位0.1%の所得は増加の一途をたどるものの、それ以下の世帯では所得はほとんど増えていない。また、純資産のシェアを増やしているのも上位1%だけであり、中でも上位0.1%は急激な増え方を示している。こうして行きつく先は、「0.1%対残り」の構図である。
急速に技術革新が進む今、教育の重要性は誰もが認識している。現況を正しく判断し、将来を見越した対応を考え、実行できるエリートを育てることは急務だといえよう。しかし、その登竜門である、アメリカのエリート大学は、一段と狭き門となっている。
スタンフォードやハーバードのような一流校に進学するためには、高校生になるまでに学業やスポーツ、課外活動などでの優れた実績と人脈を築くことが極めて重要となる。ただし、こうした条件を有利にそろえるために、私立の幼稚園に通わせると、授業料は年間300万円にも及ぶ。おまけに私立大学で4年間を過ごすには、3000万円がかかるという。
就職までのコストが膨大になる一方で、就職後の所得はさほど増えていない。となると、中間層が教育費の捻出で生活を圧迫されているのは火を見るよりも明らかだ。現にアメリカの大学進学者のうち、60%以上が学生ローンを借りている。しかも、政府保証付きの学生ローンを利用した場合は、自己破産しても返済義務を一生背負うことになる。返済が難しい人へのローンでも、政府の保証があれば、証券化して市場で売買できる仕組みになっているのだ。
このように、借金の総額を押し上げている最大の原因が教育費であり、社会人初期の段階で多くの人が多額の借金を負っているのが、アメリカの現実なのである。
2008年の金融危機から回復を遂げ、企業収益を大きく増やしているアメリカ。その背景には製造業の復活があった。アメリカ「一人勝ち」のエンジンは、技術革新のメッカ、シリコンバレーである。もともと半導体産業のメッカだったシリコンバレーには、新エネルギー開発やクラウド、ビッグデータ、IoT、そしてAI、ロボットなどの多様な産業分野が集中している。
また、シリコンバレーには、自動運転車の製造に必要な技術や走行環境、潜在ユーザーといったエコシステムがそろっている。このことから、自動運転の時代に向けて、この地が次世代の自動車産業の中心地となる可能性が高いとされている。一般道路を自動運転で走行する実験距離でいうと、現状では企業の中でグーグルが圧倒的トップに位置する。また、フォードはウーバーやグーグルと協調し、2021年までに無人運転車を発売すると発表している。
自動運転用のインフラを整備するには、かなりの財政資金や政治力がいるうえに、法的問題の解消、ハッキング対策といった課題も山積みである。しかし、グーグルや自動車メーカーは、政治家をうまく味方につけて、自動運転の段階的実用化を加速させていくだろう。
さらに、製造業復活を支えた動きの一つとして、石油製品の製造の増加を忘れてはいけない。
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