フェルマーの最終定理

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フェルマーの最終定理
出版社
出版日
2006年06月01日
評点
総合
4.3
明瞭性
4.5
革新性
4.0
応用性
4.5
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おすすめポイント

本書は300年以上もの間、多くの数学者を悩ませてきた超難問「フェルマーの最終定理」が解決されるまでを描いた一冊である。

一見すると難解に思えるかもしれない。しかし、本書を読むのに数学の知識はほとんど必要ない。各章を順に読んでいくことで、数学における定理とは何か、証明とはどういうものか、そしてフェルマーの最終定理が証明されることの意義とは何か、無理なく理解できるようになるはずだ。

また、本書に登場するエピソードはそれぞれ色彩に富んでおり、数学に関する本を読んでいるということを思わず忘れてしまうほどおもしろい。人間味にあふれたドラマチックな展開がそこここにあり、それらが絡まり合いつつ証明の成功へと向かって物語は進む。もちろん数学的概念は多く登場するが、ほとんど数式を使わずに説明するその手腕は圧巻のひと言だ。なお、より深い知識を求める人のために、補遺として詳細な解説もされている。

歴史的な大偉業であるフェルマーの最終定理の証明について、その内容を正確に理解できるのは数学者の中でも一握りに限られるであろう。だが、その意義やすばらしさについては、本書を読むことで多くの人が共有できる。これほどに質の高いノンフィクションはそう多くない。上質な推理小説のように読者を引きつける力を持った一冊である。

著者

サイモン・シン (Simon Singh)
1964年、イングランド、サマーセット州生れ。祖父母はインドからの移民。ケンブリッジ大学大学院で素粒子物理学の博士号を取得し、ジュネーブの研究センターに勤務後、英テレビ局BBCに転職。TVドキュメンタリー『フェルマーの最終定理』(‘96年)で国内外の賞を多数受賞し、’97年、同番組をもとに第1作である『フェルマーの最終定理』を書き下ろす。第2作『暗号解読』、第3作『宇宙創生』(『ビッグバン宇宙論』改題)がいずれもベストセラーとなり、科学書の分野で世界中から高い評価を得ている。

青木 薫 (あおき かおる)
1956年、山形県生れ。京都大学理学部卒業、同大学院修了。理学博士。翻訳家。主な訳書にW・ハイゼンベルク他『物理学に生きて』、R・クリース『世界でもっとも美しい10の科学実験』、S・シン『フェルマーの最終定理』『暗号解読』『宇宙創成』など多数。

本書の要点

  • 要点
    1
    17世紀を生きたフェルマーが数学書の余白に残した謎めいたメモが、世紀の難問となった。多くの数学者がそれに立ち向かったが、ことごとくはねつけられた。
  • 要点
    2
    証明は不可能なのではないかと考えられるようになった矢先、孤立したパズルと思われていたフェルマーの最終定理が、実は現代数学における最も意義深い問題と表裏一体であることが判明する。
  • 要点
    3
    少年時代から最終定理の証明を夢見てきたアンドリュー・ワイルズは8年以上もの歳月を費やし、ついに証明に成功した。

要約

フェルマーの最終定理とは

フェルマーが残したメモ書き
Gearstd/iStock/Thinkstock

1601年、フランス南西部の町に生まれたピエール・ド・フェルマーはいかなる団体にも属さず、アマチュアの数学者として活躍していた。その彼の座右の書が『算術』だった。古代ギリシャ数学最後の巨星、ディオファントスによって編纂された大著である。

あるとき『算術』の2巻目を検討していたフェルマーは、ピュタゴラスの定理に関する箇所に行き当たった。そこである方程式を思いついたのである。それが後に「フェルマーの最終定理」と呼ばれることになる方程式、つまり「3以上の自然数nに対して、Xのn乗+Yのn乗=Zのn乗を満たす自然数X,Y,Zは存在しない」であった。

そしてフェルマーは次のメモを残した。「私はこの命題の真に驚くべき証明を持っているが、余白が狭すぎるのでここに記すことはできない」。ここに世界一の難問が登場した。

世紀の難問に挑んだ数学者たち

フェルマーの最終定理は、つい最近まで「証明が難しい」というだけの価値しか認められていなかった。数学的に重要だとは考えられていなかったのである。そうであるにもかかわらず、シンプルに見えながら異様な難しさを持つこの定理には、多くの人を引きつける魅力があった。

そんな最終定理の証明に大きな一歩を踏み出したのは、天才として名高いレオンハルト・オイラーであった。とてつもない直観力と底なしの記憶力を持ち、長大な計算を暗算でやってのけたという伝説的人物である。18世紀を生きたこの数学者は、フェルマーの『算術』の別箇所に、n=4の場合の証明が不完全ながら書き込まれているのを発見、これを出発点にしてn=3の場合の証明に成功した。しかしこの方法はn=3の場合にしか使うことができず、数学史上屈指の天才もついにフェルマーの挑戦を打ち破れなかった。

オイラー以来50年以上も閉ざされてしまっていた道をあらためて切りひらいたのは、若きフランス人女性ソフィー・ジェルマンだった。1825年、ジェルマンの考えた方法を活かし、2人の人物が同時にn=5の場合を証明し、さらに1839年にはn=7の場合が証明された。こうして、フェルマーの最終定理はひとつひとつのケースにおいて証明されつつあった。

莫大な賞金の対象となったフェルマーの最終定理
Nasared/iStock/Thinkstock

しかし1847年、ドイツの数学者エルンスト・クンマーの発表が衝撃を与えることになる。当時の数学のテクニックではフェルマーの最終定理の完全証明は不可能であるということを見事に論証したのである。世界一の難問に挑んでいた数学者たちはみな深刻な打撃を受けた。

このクンマーの仕事により、フェルマーの最終定理を証明する望みはますます薄くなり、数学者たちの関心も薄れつつあった。そこに新たな生命を吹き込んだのが資本家パウル・ヴォルフスケールであった。

彼はある時、失恋で絶望の底に沈み、自殺を決心した。綿密に自殺の計画を立て、決行の時刻を午前零時と決めた。その直前、最後のひと時を過ごそうと趣味である数学の本を拾い読みしはじめた。そこには例のクンマーの名著も含まれていた。そしてなんと、クンマーの論理の穴を見つけたのである。

「フェルマーの最終定理はやはり証明可能なのかもしれない」と彼は興奮し、修正可能かどうかを検討しはじめ、その作業が終わったときには夜が明けていた。結局、クンマーの証明は修復され、フェルマーの最終定理の証明はやはり不可能の領域に留まったものの、もはやヴォルフスケールは自殺を考えなくなっていた。そして遺言を書きかえた。

のちに彼の死に際して読み上げられた遺言には、フェルマーの最終定理の証明に莫大な賞金をかけると書かれていた。

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要約公開日 2017.06.06
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