STEMという言葉を最初に使いはじめたのは「アメリカ国立科学財団(NSF)」だ。アメリカの研究者や教育機関に年間8000億円もの資金を提供し、これまでに160人ものノーベル賞受賞者を出している、伝統ある財団である。
1990年代後半から当たり前のように使われてきたこの言葉がふたたび注目を集めるようになったのは、バラク・オバマ氏が再選を果たし、STEMを重要な政策課題としたからである。
オバマ氏は「STEMの学位を持つ人材を100万人増やす」という取り組みを始めた。その取り組みは、「教員の育成/教育プログラムを表彰する賞の設立/教育内容を評価する仕組みの整備/数学に重点を置いた補習講座への資金援助/高校生を対象にしたSTEMプログラムへの資金援助」など、じつに多岐にわたる。
オバマ氏がSTEM教育に力を入れる要因となったのは、2012年の「OECD(経済協力開発機構)生徒の学習到達度調査」(PISA)で、アメリカの順位が「数学的リテラシー」36位、「科学的リテラシー」28位、「読解力」24位と、低迷したからだと言われている。
日本のPISAの順位(2012年)は、科学的リテラシーが4位、数学的リテラシーが7位、読解力が4位と、アメリカよりも高い。だが、ゆとり教育時代には、順位をかなり下げてしまったことがあった。
ゆとり教育はクリエイティブ人材を輩出しており、一概に否定するべきではないというのが著者の意見である。しかし一方で、科学的な根拠が不足していれば、その豊かな発想もたんなる思いつきになってしまいかねない。資源に恵まれないアジア地域では、開発、設計、製造までをも見通せる力が必要とされているのである。
日本の教育が抱えている問題は、理数系に弱い大人が社会全体を洗脳し、子どもたちの好奇心を奪ってしまっていることだ。これまでは、理数系のリテラシー不足も笑って受け入れられていたかもしれない。だが、これからの時代はそういうわけにはいかない。
受験科目を減らすため、高2から数学の勉強を辞めてしまう人が続出している現状は、個人にとっても国家にとっても大きな機会損失である。生徒たちの数学や工学への才能を、より伸ばす方向にかじを切るべきだ。
すでにアメリカの教育界では「STEM(=科学、技術、工学、数学)」が常識となっている。だがそれだけでは不十分だ。これからは、STEMにA(=芸術)を加えた「STEAM」が必要不可欠になるだろう。デザインをする人はSTEMを理解しなければならないし、STEMを専門にしている人は、Aを理解しなければならない時代がやってくるはずだ。
最近のアーティストのライブやMV(ミュージックビデオ)では、立体物や平面に映像を映し出す「プロジェクションマッピング」と呼ばれる表現や、小型無人飛行機「ドローン」で撮影したダイナミックな映像が使用されている。現代のアートに触れることは、最新のテクノロジーに触れることを意味する。積極的に、新しいアート作品をチェックしていくべきである。
今の中高生にとって、シンギュラリティ(AIが人類を超す技術的特異点。2045年頃と言われている)の到来は、人生の折り返し地点にあたる。
サッカーではすでに、世界最高峰のプレミアリーグで日本人選手が活躍する時代になった。これは、日本におけるサッカーの競技人口が多くなってきていることが要因だと考えられる。ちなみに、高校のサッカー部人口は約17万人であり、野球部の人口もほぼそれと同数である。
それならば、高校の科学部の人口を、サッカー部・野球部と同程度の17万人にすれば、世界における日本の科学分野での地位向上が期待できるのではないか。
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