本書は、人工知能、とりわけディープラーニングが今後どのようにビジネスで活用され、世の中を変えていくのかという疑問に対し、グーグルの技術者が解説した書である。人工知能はこれまでも、囲碁でトップ級のプロ棋士に勝ち、クイズのチャンピオンにも勝利するなど、特定領域で大きな成果を収めてきた。しかし最近、その活用領域は実世界へと急速に広まりつつある。グーグルは「AI(人工知能)ファースト」という経営方針を打ち出し、トヨタやソニーなどの国内企業、そして政府も人工知能の研究開発に注力する姿勢を示している。
こうした動きの背景には、ビッグデータの存在がある。あらゆる機器をインターネットに接続して稼動データなどを収集するIoT(インターネット・オブ・シングス)の浸透によって、実世界のデータ化、デジタル化が進みつつある。その結果、インターネット上のサービスを主な活躍の領域としていた人工知能の影響力は、製造業、流通業、医療、教育、人事などあらゆる業界に及んでいくだろう。
ディープラーニングと呼ばれる技術は、プロ棋士を負かしたプログラムや、画像認識などに用いられている。しかしそれが何であるか、また人工知能や機械学習とはどう違うのか、説明できるだろうか。
グーグルの賀沢秀人氏によると、ディープラーニング技術は機械学習の一部であり、機械学習やディープラーニングは人工知能を実現するための手法だという。さらに同氏は、コンピューターの計算力が大幅に向上し、インターネットなどを介した大量のデータ収集により、ディープラーニングがこの数年で実用レベルに達してきたことにも触れている。
コンピューターを用いて、ある入力から特定の出力を得る計算プロセスは「モデル」と呼ばれる。ディープラーニングは、特定領域では人を上回る能力を発揮することもある。もちろん、人間があらかじめ囲碁で最適な一手を選択するモデルや、画像認識を行うモデルなどを提供しているわけではない。コンピューターが大量のデータから、自ら答えを導きだすモデルを作り出しているのである。
ディープラーニングは、人間の脳の神経構造を模した人工知能「ニューラルネットワーク」を発展させたものだ。その特徴はとても単純なところにある、とグーグルの賀沢氏は語る。それは画像やテキストなどの大量のデータがあれば、画像認識や機械翻訳といった複雑な処理をする人工知能を、比較的簡単な手法で構築できるためであるという。
グーグルは、すでに多くのサービスでディープラーニングを活用している。例えば「Gmail」では迷惑メールを判別するために、ディープラーニングが用いられている。また、「Google翻訳」でも翻訳品質の向上に大きく寄与した。さらに、同社のデータセンターでは、ディープラーニングを活用して冷却設備の設定を最適化した結果、電力消費量を大幅に削減できたという。
そのほかの活用事例として、家庭のAIコンシェルジュ、「Google Home」という機器も米国で市販され始めている。
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