そもそも感情とは何か。感情とは知性や理性を超えたところにあり、知性や理性ではコントロールできないものだ。とはいえ、感情自体は人間が本来もっている原始的な感性であり、決して悪いものではない。
しかし、現代の人たちは、どうしても知性を優先させようとするあまり、感情を抑えて生きている。そのため、心身が不調に陥ったり、あるとき感情が突然爆発して、最悪、暴力事件を引き起こしたりすることもある。こうして人間関係の破たんにつながっていく。
ビジネス、プライベートの場面を問わず、円滑な人間関係を築くには、感情をコントロールすることが必須となる。そのためただ単に感情を抑えて、消してしまったり、すぐに吐き出したりしないで、うまく「折り合う」ことが求められる。まずは湧き上がってきた感情を自分でしっかりと受け止め、受け入れることが必要である。
感情とひと言でいっても、不満、不安、怒りといった「マイナスの感情(不快な感情)」と、うれしさ、快適、幸福といった「プラスの感情(快の感情)」に大別される。マイナスの感情が心を覆っているときは注意が必要である。たとえどんなに論理的に人を説得する能力に長けていても、怒りやパニックという負の感情に支配されれば、初歩的なミスを犯しやすくなってしまう。
マイナスの感情を生む主要な原因として、「かくあるべし」という思考が挙げられる。「上司とはかくあるべし」「妻とはかくあるべし」といった思い込みは多かれ少なかれ、誰もが持っている。しかし、この思い込みが強い人ほど、相手に対して不満がたまり、それにより人間関係がおかしくなり、また自分に対して怒りや失望を覚えるというように、悩み自体がますます増大する傾向にある。「かくあるべし」思考から解放されないと、次第に視野が狭くなり、その結果、自分の想像力を縛ることにもなるのだ。
脳科学の研究が進み、脳の働きレベルで、若い人と老人の感情の出し方の違いがわかってきた。感情は、大脳辺縁系という場所で生じるのだが、大脳皮質の中にある前頭葉が、感情にブレーキをかける役割を果たしている。
しかし、年齢を重ねると、前頭葉の働きが落ち、感情を抑える力が低下してくる。つまり若い頃は、感情のテンションは高いが、そこにブレーキをかける作用も強い。そのため、誰かにバカにされたりすると、カーッと頭に血が上る度合いは激しいが、それに歯止めをかけやすい。一方で年を取ると、すぐにはカーッとはならないが、いったん怒りが込み上げてくると、それを抑えるのが難しくなり、感情に振り回されてしまうのだ。
カーッとなってしまったときの対処法として、自分なりの感情の「即席コントロール法」を身につけておくとよい。例えば、深呼吸をしてひと息入れてみる、不安になったら好きな歌を口ずさむ、お経を唱えてみるといった方法が効果的である。これらを体得すれば、いざというときに感情に振り回されずに、冷静に対処できるようになる。
精神分析学者のフロイトが、1923年に発表した理論では、人間には主に3つの心の領域があるという。1つ目は「自我」といわれる、理性の部分である。脳科学でいうならば、前頭葉の機能を果たす。2つ目は「エス」という感情が湧き出てくる部分である。そして3つ目は無意識のうちに自我を縛る「超自我」である。
フロイトのモデルによると、人間は生まれたときには、エスの塊で自我がなく、感情の赴くままに生きているという。しかし5、6歳になると、自我が芽生えて、エスをコントロールできるようになっていく。つまり、自我によって社会的に調和のとれた生き方が可能になる。
ただし、フロイトはエスを押し殺すのではなく、エスと自我のバランスをとることが非常に重要だと説いている。
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