芝居の世界では、良い役者の素養は「一声二顔三姿(いちこえにかおさんすがた)」と言われる。一番大事なのが「声」で二番目に「顔」、三番目が「姿」という意味である。これら3つは人前で話す時も同じく重要である。
「いい声」とは「聞き手がよく聞きとれる声」を意味する。皆が聞き惚れるような美声である必要はない。ハスキーボイスでも低い声でも、聞き手に何を話しているのかがしっかり伝わるのがいい声だ。自分のいい声を見つけるためには、自分の本当の声を知る必要がある。
まず、自分が話している様子をスマートフォンのボイスレコーダー機能を使って録画か動画撮影をすると、自分の本当の声がわかる。普段自分が聞いている声と、実際に自分が話している声は違う。その違いの中に「いい声」が隠れている。
いい声を見つけるには、消防車のサイレンのマネをするとよい。昔のサイレンは手回しで、低い「う〜」という音から始まり、回転を速くすると徐々に音が高くなる。その音をマネして、「う〜」「あ〜」と低い声から始めて、自分の限界の高い声までゆっくり上げていく。これを何回か繰り返すと、「気持ちよく額の真ん中辺りに響く音」が見つかる。これが自分の一番響く声であり、聞き手に届くいい声だ。
あとは日常会話でも「額の真ん中辺りに響いているか」を意識して声を出す。それを録音して聞きながら声を調節していけば、誰でもいい声で話せるようになる。
人前で話す時、特に大事なのは最初の10秒の声である。消え入りそうな第一声から始まると、聞き手を不安な気持ちにさせてしまう。
そのため、最初の10秒は会場にいる全員に声が届くように、高めの大きな声から入るのが基本だ。これが「バズーカ砲を撃つ声」である。バズーカ砲と言っても、大声でがなりたてるわけではない。バズーカ砲を撃つ声は、商店街の店主の声をイメージするとよい。商店街が賑わっていても、店主の「奥さん、今日はサンマが安いよ」という声は不思議なくらいよく通る。これは、店主が長年の経験から騒音の中でも響く、高くて大きいバズーカ砲を撃つ声を会得しているからだ。
最初の10秒以降は「水撒きの声」を意識するとよい。植物の葉や花を痛めないよう、ホースの先をつぶして水をやるイメージで、会場の隅から隅まで声を届ける。前に座っている聞き手に対しては、優しく水を掛けるように少し声を落とす。一方、遠くにいる聞き手には、ホースの水圧を上げるように少し強くて高い声を意識する。
つまり、聞き手の人数や話す方向によって、声の音質とベクトル、飛ばし方を変えることが大事である。
二番目に大事な顔とは、顔の造りではなく「表情」のことだ。人前に出る時は、何があろうと「笑顔」が欠かせない。暗い表情で舞台の袖から出てくると、聞き手のワクワク感が消えてしまう。眉毛を上げて、口元で微笑む程度の自然な笑顔を心がけたい。
では、笑顔を魅力的なものにするにはどうすればいいのだろうか。
3,400冊以上の要約が楽しめる