「なぜこんなに雑談が多いの?」「なぜアジェンダがないの?」博報堂に転職した社員が初めて打ち合わせに参加した際、必ずそう口にする。また外部の来訪者は、他の会議室から聞こえてくる笑い声の多さに驚く。
2009年、東京大学大学院・教育学研究科の岡田猛教授の研究グループは、博報堂の打ち合わせの特徴を調査した。この調査によると、博報堂の打ち合わせは50%が「雑談」でできており、ゴシップや悪口が打ち合わせの潤滑油になっているという。ここで飛び交う雑談は、新しい発想が生まれる会話の「しくみ」から生まれている。
博報堂ならではの打ち合わせ手法は、暗黙知として社内で共有されてきた。本書は、これらを体系化したものをベースに、博報堂の各部門へのヒアリングを行うことで完成したガイドブックである。
1895年、博報堂は、瀬木博尚氏が設立した教育雑誌の広告取次店として産声をあげた。やがて時代の変化に合わせ、サービスの主軸を広告スペースから、「マーケティング」「クリエイティブ」に変更した。生活者の視点から発想することで新しい価値を創造する企業として生まれ変わったのである。
博報堂に課せられた命題は、想定外のアイデアの提供だ。ひとりの社員が思いつく発想には限界がある。そこで、ひとりの天才に頼るのではなく、チームや組織全体で創造性を発揮する「集合天才」の概念を取り入れている。
こうした理念を持つ博報堂の打ち合わせは、人間にとっての「水」にたとえられるほど、欠かせない存在だという。打ち合わせでできている企業といっても過言ではない。目的は、「考えやアイデアを出し合い、積み上げていく」こと、「参加者全員が自発的、相互的に意見を出しながらひとつの答えを導く」ことである。
「アイデアは、人ではなく会話に宿る」。こうした考えのもと、個々のメンバーが事前に考え抜いたアイデアを持ち寄り、想定外の発想を生み出すために打ち合わせに臨んでいる。
では、博報堂の打ち合わせとは具体的にどのようなものなのか。博報堂が定義する、課題解決やアイデア出しを目的とした打ち合わせは、「共有」「拡散」「収束」「統一」という4つのプロセスで構成される。概略は次の通りだ。
共有:目的や進め方など、打ち合わせの前提となる情報を参加メンバーで共有する。
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