「夜遊び」の経済学

世界が注目する「ナイトタイムエコノミー」
未読
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世界が注目する「ナイトタイムエコノミー」
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「夜遊び」の経済学
著者
出版社
出版日
2017年06月20日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

出張や旅行で地方都市を訪れた際、夜になると早々に行くところがなくなり、ホテルで仕方なくテレビを見て寝たという経験はないだろうか。もしその時間帯に魅力的な場所があれば喜んでそこへ赴き、大いに消費をするかもしれないのに。

著者は日本人としては珍しいカジノ経営の専門家だ。日本でのカジノ合法化や統合型リゾート(IR)導入に関する議論でも、その意義や制度設計のあり方などを説いている。そんな著者の目には、日本のナイトタイムエコノミー振興策、特に行政の関与には、改善点が多数あるように映るのではないだろうか。

カジノの象徴である米国ラスベガスは非常に華やかであるが、IR事業者への監査は非常に厳しい。経営層の犯罪歴や反社会的勢力との関わり次第では、査察を受けて営業停止になることもある。ひるがえって日本では、風俗営業法に反する飲食店などの深夜営業が事実上黙認されているなど、行政がナイトタイムエコノミーに関わる事業者をなかば野放しにしてきた。

著者の主張する通り、ナイトタイムエコノミーに大きなポテンシャルがあるのはまちがいない。本書はこれまで日本でほとんど論じられてこなかった、ナイトタイムエコノミーの経済効果と行政の役割がまとめられている貴重な一冊だ。地域活性化や観光振興、および新たな「公」の役割に興味のある方は、ぜひご一読いただきたい。

ライター画像
ヨコヤマノボル

著者

木曽 崇 (きそ たかし)
国際カジノ研究所所長。1976年、広島県生まれ。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)、日本で数少ないカジノの専門研究者。米国大手カジノ事業者にて内部監査業務を勤めた後に帰国し、2004年にエンタテインメントビジネス総合研究所に入社。主任研究員としてカジノ専門調査チームを立ち上げ、国内外の各種カジノ関連プロジェクトに携わる。’05年より早稲田大学アミューズメント総合研究所カジノ産業研究会研究員として一部出向、国内カジノ市場の予測プログラム「W-Kシミュレータ」を共同開発。’11年より国際カジノ研究所を開設、所長に就任。’16年12月「今年活躍したブロガー」を選出するBLOGOSアワード受賞。

本書の要点

  • 要点
    1
    ナイトタイムエコノミーとは、夕刻から翌朝までの経済活動の総称である。含まれる業種としては飲食、娯楽、教育、交通、不動産などがあり、その経済波及効果は非常に大きい。
  • 要点
    2
    大きな経済効果と雇用を生むナイトタイムエコノミーは、行政にとっても重要である。欧州の主要都市では「夜の市長」と呼ばれる行政ポストを設け、その旗振り役や調整役を担わせている。
  • 要点
    3
    「夜は寝るもの」という価値観が続いてきた日本では、ナイトタイムエコノミー振興に向けた取り組みが遅れている。ここで重要なのは「稼ぐ」こと、つまり消費機会の創出という観点である。

要約

「消費」を促す夜の経済

多くの人が関わっている

ナイトタイムエコノミーとは、「アフターファイブ」と称される夕刻から翌朝までの経済活動の総称である。たとえば夜の遊興活動の場を提供するレストラン、居酒屋、バーなどの飲食サービス、音楽やパフォーマンスを提供するライブハウス、ダンスクラブ、劇場などがこれに含まれる。

また夜間に開講する英会話教室や、資格取得予備校などの教育関連事業者、タクシーや深夜バス事業者も、ナイトタイムエコノミーの事業者といえるだろう。さらに広義には、商業施設や宿泊施設の運営事業者、不動産ディベロッパーもここに含まれる。つまりナイトタイムエコノミーは、都市政策にも大きく影響を及ぼすものなのである。

消費機会の拡大を狙う
jacoblund/iStock/Thinkstock

ナイトタイムエコノミーの振興において、最も重要な観点が消費機会の拡大である。

主に娯楽性などを求めて行なわれる消費は、たとえ「消費意欲」と「予算」があったとしても、「消費機会」がなければ発生しない。ナイトタイムエコノミーの振興は、夜の時間帯に「消費機会」を増やし、国および地域の経済活性化につなげようとする試みだといえる。

その経済効果を示す好例がハロウィンだ。チョコレートを贈るだけのバレンタインと異なり、ハロウィンでは仮装をして街に繰り出し、パーティなどでさまざまな消費を行なう。その結果、日本におけるハロウィンの市場規模は、バレンタインの市場規模を上回ったと推計されるほどになった。

【必読ポイント!】「世界」で成長する夜の産業

イギリスのナイトタイムエコノミー

1990年代、イギリスでは「ドーナツ化現象」と称される中心市街地の衰退が生じた。これに対応するため、イギリス政府は中心市街地の活性化指針を策定。各主要都市にタウンセンターマネジメント団体を組成した。

これらの団体が行なっている事業のひとつが、ナイトタイムエコノミーの振興事業である。「街歩きの楽しさ」と「飲酒を前提とした夜の商業」により、郊外型のショッピングセンターに対抗するという発想だ。

英国タウンセンターマネジメント協会は、「安全・安心して夜の街を楽しめる地域」の証として、「パープルフラッグ」と呼ばれる認定制度を設けた。この認定は、犯罪および反社会行為の抑制、アルコールにまつわる問題の抑止策、店舗数やその多様性、交通アクセスなどの基準で判断され、夜遊びの場所選びに関する「品質保証」として機能している。

10兆円規模に成長したイギリスの夜
IR_Stone/iStock/Thinkstock

イギリスのナイトタイムエコノミー産業は、その規模を大きく成長させている。

2015年、ナイトタイム産業協会は、イギリスの経済規模が9兆5700億円に達するという調査結果を発表した。なかでも最大の規模を誇るのがロンドンである。広義のナイトタイムエコノミーに従事する者を含めると、雇用者数は126万人にも及ぶと推計され、この経済規模や雇用者数は今後、さらに拡大すると予測されている。

また2016年、ロンドン市は副市長を議長として、「ナイトタイム委員会」を組成した。この委員会には、劇場やナイトクラブ、酒販業者など民間事業者の代表と、警察、公共交通、公衆衛生などを担当する市政担当者が参画している。経済的・社会的影響に関する調査を行ない、ロンドンのナイトタイムエコノミー振興に関する提言をするのがその役割だ。

顔役としての「夜の市長」

ロンドンでは「ナイトタイム委員会」の設置と同時期に、「ナイト・ツァー」(夜の皇帝)と呼ばれる役職を新設した。これは他国の都市だと、「ナイト・メイヤー」(夜の市長)と称されることが多い。ナイトタイムエコノミー振興を推進する「広告塔」の役割や、現場責任者として産業界や自治体などと連携する「調整役」の役割が、ナイト・メイヤーには求められている。

ナイトタイムエコノミー振興の陰には、深夜の騒音、ゴミ放置、反社会的組織の関与、酩酊者が引き起こすトラブル――こういった負の側面が常に伴う。それゆえナイトタイムエコノミー振興が、かならずしも市民から歓迎されるとは限らない。加えてナイトタイムエコノミーに従事する事業者自身も、行政の関与を望まないケースが目立つ。ナイト・メイヤーはこうした困難な状況のなか、ナイトタイムエコノミー振興の「顔役」として理解を促し、政策実現のために環境を整備するべく働いている。

2014年にアムステルダムではじめて採用されたナイト・メイヤー職は現在、パリ、チューリッヒ、トゥールーズ、サンフランシスコなどでも設置されるようになった。

日本でナイト・メイヤー職を設置する自治体はまだない。しかし渋谷区では、観光協会の中に「ナイト・アンバサダー」(夜の観光大使)という役職が設置され、初代大使にはヒップホップアーティストのZeebra氏が選ばれている。

夜の「観光」を振興する

「稼ぐ観光」への転換

2015年、日本を訪問する外国人観光客数ははじめて2000万人を突破し、いまもなお増加傾向にある。

安倍政権ではこうした観光市場の拡大を背景として、「稼ぐ観光」という政策を打ち出した。日本は長い歴史と美しい自然に恵まれ、世界でもまれに見る豊富な観光資源をもつ国である。しかし文化財や自然観光「だけ」ではお金を落としてもらえないのも事実だ。

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要約公開日 2017.12.01
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