人間の脳には「思考の致命的な欠陥」が7つある。要約では、「思考の欠陥」の一部と、その解決策を紹介していく。
まずは結論を出し急いでしまう「飛躍」という思考の欠陥である。心理学者ダニエル・カーネマンは、著書『ファスト&スロー—あなたの意思はどのように決まるか?』の中で、人にはファスト(直感的な速い思考)とスロー(論理的な遅い思考)の2種類の思考があると述べている。
例えば、キャッチボールの場合、経験者なら考えなくてもボールを捕れる。これは、経験則というパターンに沿ってファストが導いてくれたおかげだ。一方で、キャッチボール未経験者ならば、スローによってどう捕ればいいのかを理解し、意識的に行動しなければならない。
専門知識や自信、第六感はファストに当たる。人間はファストのおかげで1日を楽に、効率良く過ごせている。しかし、ミスを引き起こすのもファストに原因があることが多い。急いで答えを出そうとするあまり、情報が限られているにもかかわらず、ファストの思考回路が動き出してしまうのだ。
そこでスローの出番となる。スローの主な役割は、ファストの誤作動を防ぐことである。スローはファストに頼っていては解決できないという段になって初めて作動する。
結論を出し急ぐという脳の致命的な欠陥を修正するには、どうすればいいのか。著者は企業のファシリテーションを担う中で、結論を出し急ぐ衝動を、ブレインストーミングに似た活動へと向かわせることが有効だと気づいた。その活動とは、答えではなく疑問をどんどん出し合うという内容で、「フレームストーミング」と呼ばれている。フレームストーミングとは、フレーミング(枠組みづくり)とブレインストーミングを組み合わせた造語だ。
最小限の手段で最大の効果をもたらす解決策を、「エレガントな解決策」という。解決策のエレガンスは、問題を適切な枠組みでとらえられるかにかかっている。必要な情報がすでに与えられていると思いこまずに、複数の枠組みを検討してみるのだ。そうすれば、結論を出し急ぐという思考の欠陥を修正できる。
フレームストーミングは、解決策のかわりに疑問を次々に考え出すことに焦点を当てる。そのため、ファストの回路を使っているような感覚で、スローの回路を作動させられるというメリットを持つ。
フレームストーミングは次の3つのステップに沿って行うとよい。ステップ1は、説得力のある問いを立てて、言語によるフレーミングを行うことである。最良のフレームは問いの形をとる。良い問いとは、物事の受け止め方、考え方を変えるきっかけとなるような意欲的かつ実用的な問い、すなわち変化をもたらす触媒の働きをする問いを指す。「なぜ?」「もし〜だったら?」「どうすれば?」という3つの段階をたどって、良い質問ができあがっていく。
ステップ2では、できる限り多くの問いを見つけ出す。フレームストーミングも最初は質より量で勝負だ。2桁を超えるまでは考え続けなければならない。
問いが出尽くしたところで、その中から良い問いを少なくとも2つ選んで、ブレインストーミングに移行する。これがステップ3だ。これらのステップを踏むことで、より深く創造的な思考が可能となる。
意味のない文字の羅列にさえ、意味を見出そうとパターン化を始める。これが人間の脳特有の性質だ。あらゆる経験がデータとして脳に蓄えられるが、新たな経験は経験済みのデータと結びついていく。すると記憶や認識が形成され、それが強化されることでメンタルモデル(物の見方や先入観)ができる。
ある情報が既存のパターンの一部であると脳が認識したとたん、ファストの思考がスローの思考より優位になり、脳が他の可能性を排除する。これこそが、固着が起こるメカニズムだ。
組織行動研究者の大家クリス・アージリスは、メンタルモデルは「思いこみの梯子(はしご)」と呼ばれる反復的パターンで展開されると主張している。人は何かを経験すると、自分の理論を当てはめて結論や憶測を導き出す。そして信念に基づいて何らかの行動を起こす。こうして梯子をのぼっていくにつれて、人々は事実を抽象化していく。その結果、新たな状況に直面したときに、最適なアクションをとれないことが増えてしまう。
この固着を解決するのに有効なのが、「反転」である。反転とは、自分が物事を考えるときの視点を180度ひっくり返して、新たなパターンをつくる行為だ。
ジェフリー・シュワルツという神経科学者は、次のようなプロセスによって脳の回路を組み替えることが可能だと述べている。彼は強迫性障害の患者を支援する際、まず患者を縛り付けている思考回路から距離をとるように促す。そして、健全で有益な新しいパターンをつくって、心のギアを完全に入れ替えるのである。すると、脳による支配を克服し、思いこみから自由になれるのだ。この方法の核心は、常識をひっくり返して、これまでとは異なる新たな考え方を見出すことだといえる。シュワルツの手法を踏まえて、著者は「正反対の世界」という反転の手法を考案した。
「正反対の世界」は具体的には次のような手順で進んでいく。まずは、取り組んでいる課題について、標準とされる状態や決定的な属性をリストアップする。次に、各属性の正反対の要素をリストアップする。最後に、正反対の要素を出発点として、フレームストーミング、ブレインストーミングを行う。このように、現在の考え方や伝統的な考え方の対極に目を向けることで、思考を開放させ、探索の価値ある新たなソリューションを発見しやすくなる。
本当は不可能ではないのに不可能に思えて、目標達成をあきらめてしまう。これは「過小評価」という思考の欠陥によるものである。
人は無意識のうちに、自分の限界を決めて前進できなくなっていることが多い。また、自分の能力自体を過小評価する事例も事欠かない。トヨタがベンツやBMWを凌ぐ高級車をつくると決めたとき、社員や職員は一様に「できるはずがない」と口にした。しかし、わずか6年でほぼゼロから初代レクサスを生み出し、無謀に思われた目標を達成した。
さらには、問題解決のための効果的な取り組みが欠如していることや、長期的目標の達成に必要な粘り強さと情熱、すなわち「グリット」を欠いていることも、「過小評価」の原因となっている。
「できるはずがない」と思い、やる気が起きない場合の対処法として有効なのが「ジャンプスターティング」である。ジャンプスターティングとは、これまでの考え方とは異なる思考力を利用し、課題解決に再チャレンジする方法を指す。必ず問題を解決し、勝利を収めるという意思こそが、最大の力になることを心に留めておきたい。
ジャンプスターティングの具体的なアプローチは次の3つである。1つ目は「キャン・イフ・テクニック」だ。できるはずがないと考えた課題に対して、「〜だから不可能だ」を「もし〜なら……できる」と置き換えるというシンプルな方法である。これにより、解決策を見出そうとする流れを維持しやすくなる。
2つ目は、「なぜ」「どのように」を掘り下げて考えるというテクニックである。「なぜ」は努力の目的を、「どのように」は努力のプロセスを指す。思考の途中で不可能だと感じたら、どちらか一方を思い出すとよい。「どのように」という問いの答えを探すのに行き詰まったら、「なぜ」という問いに切り替えるのである。
3つ目は「フレッシュ・スタート効果」を利用するという方法だ。フレッシュ・スタートとは、新年を迎えたときに、新たな1年に向けて積極的な目標を立てようと意気込むときの気持ちを指す。これを利用し、90分を1サイクルとみなして仕事をする。90分ごとに場所を移動するだけでフレッシュ・スタート効果を得られる。
こうした方法により、気持ちを立て直せば、問題解決に取り組むための軌道に戻ることができる。
自己検閲は、想像力や好奇心、創造性を失わせる最悪の欠陥だ。自分自身のアイデアを自ら却下したり否定したりして、握りつぶしてしまう。これは恐怖心によって引き起こされる。社会に受け入れられたいと願うほど、調和することが目標になり、挑戦しないという判断に服従してしまう。
このような思考は、マインドレス(思慮のなさ)から生まれる。過去によって現在を過剰規定するあまり、「自分は知っている」「これこそが正しい」という考えにとらわれてしまう。この状況を打破するには、不確実性を受け入れることが必要となる。そして不確実性こそがマインドフルネスの鍵となる。
マインドフルネスには、東洋的な意味合いと西洋的な意味合いがある。東洋的なマインドフルネスは、心を静めて思考を一時停止することをめざす。しかし、西洋的なマインドフルネスは、それとは真逆であり、積極的に思考することを重視している。
マインドフルネスな状態になると、既知だと感じていた物事に、知らない部分があることに気づけるようになる。すると、あらゆる物事が新鮮に見えてくる。つまりマインドフルネスとは、周囲の変化を見逃さない高次の注意力が働いている状態のことだ。著者はこれを「セルフ・ディスタンシング」と呼ぶ。
自分に対する呼びかけを一人称から三人称にすることにより、心の中で自分自身から距離をとり、第三者的な立場に立てる。するとセルフコントロールがしやすくなり、思考がクリアになってパフォーマンスが向上する。
こうして、部外者の視点から状況を合理的に見つめ、マインドフルな思考ができるようになる。
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