勝ち負けを競うものには必ず戦略が必要になる。
スポーツや、碁や将棋などのさまざまなゲームを見ていてもわかることだが、勝ち負けというのは自滅によって決まる。強い方が勝つのではない。
たとえば野球でいうなら、むずかしい球を打ってホームランになるということはほとんどない。ホームランバッターというのは、ピッチャーが招いた失球をしっかり捕らえてホームランにする。一方で、強いピッチャーというのも、勝負どころでの失球は少なく、相手の自滅を誘うのがうまいものだ。
そして、勝つために大切なことは、「勝ちにいかないこと」である。なぜなら、勝ちにいくと必ず隙ができ、それが仇となって自滅につながることが多いからだ。ゲームとしてはおもしろくなくなるが、勝ちにこだわるなら守備に徹するのが基本戦略としては正しい。
つまり、勝負事では自分に有利な状況をつくりだしていくことが大切だともいえる。決して勝ち急ぐことなく、時間をかけてでも守りを固め、相手が自滅するパターンをつくる。これができれば負けることはない。負けさえしなければ最後には勝つ。これが戦略の王道だ。
戦略というのは、相手があるからこそ成り立つ。そして、相手が存在する以上、時と場合に応じて戦略は刻々と変わっていく。
サッカーW杯の予選でも、現在何位で、次の対戦相手のレベルはどのくらいで、勝ち点は何点取ればいいのか、そうした状況によって戦い方は異なる。つまり、どんな局面でも通用する戦略は存在しない。
戦略は、より具体的な戦術へ、現場レベルの戦闘へと落とし込んでいくことが必要である。戦略とは方針であり、戦術は計画であり、戦闘は行動だ。
「戦略」と「戦術」の違いについては、豊臣秀吉と徳川家康の能力の違いに学ぶのが最もわかりやすいだろう。
まず豊臣秀吉は、日本最大の「戦術」家であったといっても過言ではない。秀吉は、たとえば敵の城を攻める際、城の周囲を全部囲うのではなく少し空けておいたという。負けを感じた敵の逃げ場所を用意し、逃げていく敵を殺すようなことはしなかった。その結果、攻めることなく相手側の守備兵を減らせただけでなく、味方側の死傷者も減らすことができ、勝利してなお次の戦の余力も残しておくことができた。戦力を温存して次の戦を戦う、これが、秀吉が天下統一を果たせた理由の一つといえる。
一方で徳川家康はというと、日本最高の「戦略」家だ。家康は、とにかく負けない戦い方を貫いた。まず家康は、時間がかかっても負けることのないよう、多数派工作をする。そして、情報戦で有利に立ち、時間をかけて粘り強く攻める。そうしたやり方で最終的な勝利を手にしたのだ。
企業間の勝負は、一部の例外をのぞいて、基本的には市場のシェアを競うものになる。たとえば自動車業界は、トヨタのプリウスがヒットしたら、競合他社も対抗車を販売しようという話になる。市場全体を三、四社が競っているような場合は、シェア争いは一段と激しくなる。
いかにシェアを拡大するかという戦略は、その企業が業界でトップなのか二位以下なのかによって立て方がまったく違う。この違いを理解することは大変重要である。
まず、業界トップ企業なら、基本的な戦略はとにかく守りを固めることだ。たとえ追随する企業に一か所でも風穴を開けられてしまったら、そこを起点に影響が広がり、ひいてはトップの座をも奪われかねないからだ。したがって、360度全方位で守りを固めることが、トップに求められる戦略である。
二位以下の企業の戦略はというと、そのトップが固める守りのどこか一点でも突破することだ。新商品、品質など、トップより優位に立てる点を探し攻め込んでいく。どこでもいいから勝てる部分をつくることに集中するのが二位以下の戦略だ。
ただし、二位以下は価格競争には手を出してはいけない。なぜなら、同様の手段をトップが取った場合、体力差で負けることが目に見えているからだ。よって、価格ではなく技術面など、トップでも簡単には真似できない点で勝負することが有効である。
ベンチャー企業の場合はどうかというと、とにかく、強みである新しさで勝負することだ。シェアを占める企業とはどの点が違ってどこが新しいかを明確にし、その新しさを一刻も早く実現させることが、ベンチャーの取るべき戦略である。
ビジネス形態が、BtoBかBtoCかによっても戦略の立て方は異なる。
BtoBであれば、不良品を出さないこと、納期を守ることが信頼を獲得するための基本的な戦略となる。というのは、
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