長きに渡り、霞が関における「最強官庁」といえば財務省であった。
しかし、2012年に発足した第2次安倍内閣が、その構造に決定的な変化をもたらした。「官邸主導」の政治スタイルを完全に定着させたのだ。これにより、それまで大きな存在感を発揮していた財務省の影響力は、陰りを見せることになった。
財務省の代わりに存在感を高めたのが、財務省の「弟分」である金融庁である。特に、森信親氏が長官に就任した15年から、その影響力は強まりつつある。経済成長のために打ち出された新たな政策を、金融庁は着実に実現させており、首相官邸からの信頼も厚い。こうした活躍により、いま金融庁は「新・最強官庁」とも呼ばれ始めている。
金融庁長官である森氏は、自らが先頭に立って問題を解決しようとし、自分が納得できない政策についてははっきりと否定する、「尖った」スタイルの人物だ。
森氏が進めてきた改革には、3つの特徴がある。
1つ目の特徴は、金融機関などの自主的な努力を促すため、「コード」(原則)を活用していることだ。金融サービスの質や、日本の金融市場の魅力を高めたい場合、法令だけではどうしても限界がある。そこでコードの出番である。コードとは、企業がサービスや市場の品質向上に向けて取り組むべき原則のことを指す。コード自体はあくまで指針であるため、コードに同意するかどうかは企業の判断に委ねられる。しかし、その場合は理由を説明しなければならない。
2つ目の特徴は、銀行経営の実態を客観的なデータで把握しようとすることである。「地域経済の活性化に全力を尽くしている」とアピールする地方銀行(地銀)は多いものの、行動が伴っているかどうかは千差万別だ。そこで、客観的な数字を示させることにより、必要であれば金融機関に経営改善を求めていく。
3つ目の特徴は、PDCAサイクルの導入だ。具体的には年に1度、「行政方針」といった形で、年間の行動計画を具体的に提示している。金融庁のやり方が適切かどうか、中立的な外部の専門家を金融行政の「モニター委員」として配置して意見を聞く。そして年間結果を「金融レポート」の中で明示し、翌年以降の改善につなげていくのである。
金融庁がさまざまな改革を推し進めることができたのは、ひとえに森氏の強いリーダーシップがあったからこそだ。だがその結果として、金融庁は森氏個人への依存度を高めてしまった。それは2016年夏、金融庁の若手職員が作った「森を見ろ 森だけを見ろ 森を見ろ」という川柳が、庁内だけにとどまらず、あっという間に金融業界に広まったことからも明らかである。
こうした状況下で、森氏が長官の座を退くと、改革が中途半端になってしまうリスクがある。また、あまりに森氏の存在感が強いことから、金融庁にとって不都合な意見が無視されてしまう危険性も憂慮されてしかるべきである。
いずれにせよ、この問題を最も気にかけているのは森氏自身だろう。だが、どのようにしてこの問題を解決していくかについては、不透明なままだ。
地域金融機関はいま、激動の中にいる。人口減少が進み、融資先を得るのがますます難しくなっている。
民間有識者の組織「日本創成会議」は2014年、全国の約半数にあたる896自治体が消滅の危機に直面すると分析した。しかも、海外に活路を見いだせるメガバンクと異なり、地域金融機関に逃げ場はない。もはや、従来のやり方だけでは生き残りは難しい。
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