生きる職場

小さなエビ工場の人を縛らない働き方
未読
生きる職場
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小さなエビ工場の人を縛らない働き方
未読
生きる職場
出版社
イースト・プレス

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出版日
2017年04月24日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

パプアニューギニア海産という会社が、テレビや新聞など各種メディアで取り上げられ、注目を集めている。同社が「働きやすい職場」を作るために実行中のある挑戦が、あまりにも斬新だからだ。その挑戦とは、同社のエビ加工工場において、「好きな日に働き、出退勤時間は自由」「嫌いな作業はやらなくてよい」という、一見常識外れにも感じられる働き方を導入したことだ。

こうした働き方は、現実的ではないと思えるかもしれない。ところが、この働き方がパプアニューギニア海産のパート従業員に浸透したことで生まれたのは、一人ひとりの高いモチベーションだった。それが、作業効率を高め、商品の品質を高め、ひいては離職率も低下するという、想像を超えたプラスの循環を生み出した。

本書の著者が工場長を務めるパプアニューギニア海産は、かつて石巻に工場を構えていた。しかし、東日本大震災によって工場は全壊し、大阪で新たな出発をすることになる。震災は、著者の心に大きな変化をもたらした。著者は改めて「生きる」「死ぬ」を問い直し、そして考えていくうちに、生きることと働くことがつながっていったという。

小さなエビ工場の挑戦の実録である本書を通して、人間にとってより良い働き方や生き方とはなにかを学ぶことができる。「働き方改革」が声高に叫ばれる今、経営側にも従業員側にもヒントを与える気づきの書として、ぜひ繰り返しお読みいただきたい。

ライター画像
田中佐江子

著者

武藤 北斗(むとう ほくと)
1975年福岡県生まれ。パプアニューギニア海産工場長。3児の父。小さな頃から引越しを繰り返し小学校は3校に通う。小学校4年から高校卒業までは東京暮らし。
芝浦工業大学金属工学科を卒業後、築地市場の荷受けに就職しセリ人を目指す。夜中2時に出勤し12時間働く生活を2年半過ごす。その後㈱パプアニューギニア海産に就職し、天然えびの世界にとびこむ。
2011年の東日本大震災で石巻にあった会社が津波により流され、その後に起こった福島第一原発事故の影響もあり1週間の自宅避難生活を経て大阪への移住を決意。震災による二重債務を抱えての再出発。
現在は大阪府茨木市の中央卸売市場内で会社の再建中。東日本大震災で「生きる」「死ぬ」「働く」「育てる」などを真剣に見つめ考えるようになり、「好きな日に働ける」「嫌いな作業はやる必要はない」など、固定概念に囚われず人が持ち得る可能性を引き出すことに挑戦している。

本書の要点

  • 要点
    1
    「働きやすい職場」とは、一人ひとりが自分の生活を大事に、生き生きと働く「生きる職場」をめざすことだ。結果として、作業効率アップや商品品質の向上もついてくる。
  • 要点
    2
    「フリースケジュール」は、子育て中の女性が多いパート従業員の負担を減らすため、「嫌いな作業はやらなくてよい」というルールは、一人ひとりの能力や個性を活かすため、考案された。
  • 要点
    3
    会社と従業員のあいだの信頼や、従業員同士の信頼を築いていくことで、働き方を自由にしていける。会社が従業員の私生活を大切にし、具体的にサポートすることで、従業員はより真摯に働くことができる。

要約

小さなエビ工場の働き方改革

誰もが居心地がいい状態をめざす
studiolaut/iStock/Thinkstock

「パプアニューギニア海産」は、社員2名、パート従業員9名の小さなエビ工場だ。パプアニューギニアの天然エビを、鮮度の高いまま冷凍して輸入し、むきエビやエビフライに加工している。

同社は、一人ひとりが自分の生活を大事にして、生き生きと働く、言うなれば「生きる職場」をめざしている。

そのために、著者が心がけているリーダーとしての在り方は、従業員に働きやすさを提供し、個々の能力を発揮できる職場にすることだ。「人を管理する」のではなく、人を縛らずに少しの秩序を保つことにこそ、効用があると考えているという。

個々の自主性が大事にされることで、従業員の気持ちが前向きになり、結果がついてくる。そうなるように、会社はひたすら職場環境や人間関係を整え、誰もが居心地がいい状態を作るようにしている。

工場でおこなっている実践のひとつが、「フリースケジュール」という制度だ。パプアニューギニア海産のパート従業員は、好きな日の好きな時間に出勤する。出勤も欠勤も、連絡の必要はない。

また、「嫌いな作業はやらなくてよい」というルールも、取り組みのひとつだ。エビの加工にはさまざまな工程があるが、そのうち好きな作業だけやればよい。

「働きやすい職場」を実現した効果

こうした、通常の会社運営から考えると非現実的とも思われる方策を実現した結果、パプアニューギニア海産にはプラスの循環が生まれた。

まず、離職率が低下した。パート従業員が辞めなくなったことで、求人広告を出す費用もかからなくなった。それから、常に熟練したパート従業員に作業をまかせられるようになったため、商品品質も向上した。

また、パート従業員の定着率が上がったことにより、一人ひとりの動きに無駄がなくなり、チームワークも改善され、生産効率も上昇した。しかも、従業員の離職が頻繁だった頃より、パート従業員の人数は減っているので、人件費も減少している。

なにより、従業員一人ひとりが臨機応変に物事を考え、高いモチベーションで自主性を持って働くというふうに、意識が変わったことが大きい。このことがすべてのプラスの循環のもとになっている。

もちろん、方策は導入当初からすべて順調にすべりだしたわけではない。初めはサボる人もいたというが、著者は「働きやすい職場を本気で作っていきたいから、みんなを信じてルールを作っていく。だから裏切らないでほしい」ということを繰り返し伝えたという。そのことで、会社と従業員の間に信頼関係が築かれたことが、施策の成功に大きな役割を果たしたと著者は考える。

意識が変わったきっかけ

東日本大震災と福島第一原発事故

かつての著者は管理思考で、従業員とは温度差があり、存在していたパート従業員の派閥すらも競わせて売上向上に利用しようと考えていたという。だが、そうした考え方が変わったきっかけとなったのが、東日本大震災だった。

以前のパプアニューギニア海産は、宮城県石巻市にあった。だが、東日本大震災による津波で、工場や倉庫は全壊。その後に起こった福島第一原発事故は、小さな子どもを抱える著者たち家族に、宮城を去ることを決断させた。そして著者は、取引先との縁もあり、大阪で再建することを決めた。

石巻で、パート従業員らに解雇を告げる最後の話をしたとき、著者の胸に、「最後まで親しく話ができなかったのが残念だった」という思いが残った。

後悔の思いを持ちながら大阪で再出発をした著者だったが、またしても同じ過ちを繰り返してしまった。主に事務方を担っていた著者は、工場の現場を理解しようとせず、パート従業員との溝は深まり、工場長は辞めてしまった。自分が工場長を務めることになり、現場のパート従業員と話して初めて、誰も会社を好きではないことに気づいて愕然とした。

ここまできてようやく、著者の目が覚めた。震災以降、ずっと問い直していた「生きる」ということが、目をそらし続けていた「働く」ということとつながった。そして、パプアニューギニア海産は、従業員たちが生きるための職場になれているのか、という思いがあふれ出た。答えは明確に、否だった。

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要約公開日 2017.11.27
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