セガ vs. 任天堂

ゲームの未来を変えた覇権戦争(上)
未読
セガ vs. 任天堂
セガ vs. 任天堂
ゲームの未来を変えた覇権戦争(上)
未読
セガ vs. 任天堂
出版社
出版日
2017年03月25日
評点
総合
3.5
明瞭性
3.0
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

「セガと任天堂のどちらで遊んだか」と聞かれたら、日本では「任天堂」と答える人のほうが圧倒的に多いだろう。しかしアメリカでは任天堂を押さえ、セガが爆発的に売り上げを伸ばした時代があった。

ゲーム業界の絶対王者であった任天堂に、唯一正面から挑戦状を叩きつけたのがセガだった。本書の上巻ではアメリカを舞台に、セガがいかにして任天堂に追いついたか、そして下巻では第三勢力であるソニーが登場し、いかにしてセガが転落していったかが描かれている。

ただのゲームの話とあなどるなかれ。これはれっきとした“戦い”の物語である。読んでいる感覚は戦記ものや歴史ものに近い。この物語に登場するゲームとともに育った諸兄にとっては、その舞台裏で繰り広げられていた戦いに胸が熱くなることも多いだろう。ときおり挿入される洒脱な会話も印象的だ。

なかでもとくに興味深かった描写は、日本とアメリカにおける企業のあり方の違いである。セガの転落の一因は日本本社とセガ・オブ・アメリカ(SOA)の軋轢にあり、任天堂の失敗も日本的な考え方がアメリカで受け入れられなかったことに原因の一端があった。また、プレイステーションで大成功を収めたソニーのアメリカ人幹部たちも、結局は軒並み日本人に解雇されている。そういう意味で、本書は単にセガと任天堂の歴史を語るだけではなく、アメリカから見た日本がどんな国なのかを垣間見せる内容になっている。

ゲーム好きにとってもそうでない人にとっても、じつに読み応えのある一冊だ。

ライター画像
池田明季哉

著者

ブレイク・J・ハリス (Blake J. Harris)
ニューヨーク在住の作家・映像ディレクター。ジョージタウン大学卒業。デビュー作である本書(2014年)は、NPR(全米公共ラジオ放送)、≪パブリッシャーズ・ウィークリー≫、≪ストレート≫ほか各種メディアで年間ベストブックに選ばれ、絶賛を浴びる。本書に基づくドキュメンタリー映画で共同監督(スコット・ルーディン、セス・ローゲン、エヴァン・ゴールドバーグがプロデュース)、ソニー・ピクチャーズ版でもエグゼクティブ・プロデューサーを務める予定。
公式サイト:www.blakejharris.com

本書の要点

  • 要点
    1
    任天堂は当時絶対的な王者だった。しかしその強引な契約により、小売店やソフトメーカーからの反感も買っていた。
  • 要点
    2
    セガはクールで革新的なイメージをつくることでマーケットを拡大した。任天堂を「子供っぽい」と感じさせるように働きかけ、ティーンエージャーや大学生などの層を取り込んでいったのだ。そのシンボルこそが「ソニック」というキャラクターである。
  • 要点
    3
    本書に登場するいずれの企業も、アメリカと日本の企業風土の違いに苦しんでいた。こうした軋轢はその後のゲーム業界にも大きく影響していく。

要約

【必読ポイント!】 創世記(ジェネシス)

トム・カリンスキーとセガの出会い
Svetlana Kuchumova/Hemera/Thinkstock

セガ会長である中山隼雄は、セガ・オブ・アメリカ(SOA)の新たなCEOを探していた。当時CEOであるマイケル・カッツは健闘していたものの、多額の広告費をムダにするなど、適任とは言えなかったからだ。そこで中山が目をつけたのが、おもちゃ業界でキャリアを築いてきたトム・カリンスキーだった。

カリンスキーはおもちゃメーカーのマテル社に勤め、当時売り上げが低迷していたバービー人形を窮地から救った人物である。カリンスキーはゲーム業界についてはまったくの無知だった。しかし中山はカリンスキーの能力に賭けていた。カリンスキーならセガにどんな可能性があり、どんな未来が待っているか理解できるはずだと確信していたのである。

はじめはまったくの畑違いの仕事に躊躇していたカリンスキーも、中山に連れられて日本の研究開発本部に足を踏み入れると、考えを変えはじめた。カリンスキーを待っていたのは、セガの最新のゲーム機「ジェネシス」(日本名「メガドライブ」)だった。その魅力に興奮を覚えたカリンスキーは、SOAのCEOに就任することを決意する。

しかし最初から順風満帆というわけではなかった。カリンスキーは前任のカッツと親しかったこともあり、中山の言葉をすぐに信用できたわけではなかった。また、不安のなかで出席したはじめてのミーティングはひどいもので、もはやミーティングの体をなしていなかった。そのなかでもカリンスキーは新しいことを始めようと奮闘していく。

支配の任天堂、自由のセガ

その頃、ゲーム業界の王者は任天堂だった。もともと花札を販売していた任天堂はその後、ディズニーのキャラクターを採用した「ディズニートランプ」で成功を収め、ゲーム業界へと進出。傲慢ともいえる手法でゲーム業界を牛耳った。

その特徴は3つに分かれている。1つ目は任天堂品質保証シールの導入だ。これにより、あらゆるソフトメーカーは任天堂の承認なしにソフトをつくることができなくなった。

2つ目はサードパーティー・ライセンス制度である。任天堂とライセンス契約を結んだソフトメーカーはソフトの制作を許されたが、その本数は年間5本だけに限られた。さらに製造委託費の前納や、約10%という高額のロイヤリティの支払いが義務づけられた。

3つ目は在庫管理だ。任天堂の流通戦略は厳格に管理され、小売店には発注量のほんの一部しか製品が供給されなかった。品薄感を出すことで購買意欲をかき立てる狙いである。

こうした手法は小売業者やソフトメーカーから反感を買ったが、結果に結びついたことも事実だ。カリンスキーは、任天堂が市場の「支配」を象徴する存在なら、セガは「自由」を象徴する存在になろうと決意した。

ソニックの誕生
klerik78/iStock/Thinkstock

任天堂という強大な敵を相手にするにあたり、セガにはマリオに対抗するための強力なキャラクターが必要だった。それは単なるキャラクターではなく、セガという存在を象徴する新しいキャラクターでなければならない。

当初、カリンスキーのもとに日本本社から送られてきたキャラクター案はひどいものだった。鋭い牙を生やし、スパイク付きの首輪をはめてエレキギターを持ったハリネズミでは、とうてい人気者になれそうにない。しかも隣には巨乳のセクシーなガールフレンドまでいる始末だ。

そこでSOAでは、このキャラクターを徹底的に改良した。不要なパーツは取り除き、キャラクターの物語をつくることに専念した。

日本本社は自分たちの案に大幅な変更が加えられたことに激怒したが、最終的には総責任者である中山が日本本社の反対を押し切り、カリンスキーにゴーサインを出す。こうして生まれたのが、セガを代表する「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」だ。

SOAと日本本社の間のこうした摩擦は、その後もことあるごとに生じることとなる。

セガのアイデンティティ

ある晩、セガが契約を結んでいたプロボクサーが試合で惨敗してしまった。そのボクサーの名前を使ったゲームがじきにリリースされる予定だったにもかかわらずだ。ゲームリリース直前の惨敗に、カリンスキーたちは頭を抱えた。

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要約公開日 2017.11.25
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