「社会人の最初の会社はスキルを身につける場だっていうのは、就職活動をする前から思っていた」「武器を身につけて自分でキャリアを描けるようになろうと思った」。こうした若年層の答えからは、転職を視野に入れ、会社に縛られないキャリアプランを描くことが、彼らの間で普通の光景となっていることがわかる。
現在、若者の転職者は増加傾向にある。厚生労働省の調査によると、25~29歳で「初めて勤務した会社で現在勤務していない」と回答した人が、1997年には34%だったのに対し、2013年には45%になっているという。
若年転職者が増加している理由として、よく挙げられるのが非正規雇用者の増加だ。非正規雇用者は一般的に不安定で離職や転職が多くなる。しかし、これは理由の一部にすぎない。リクルートワークス研究所の調査では、2000年以降、大卒で現在正社員として働く労働者の中でも、転職経験者、転職意向をもつ人が徐々に増加していることが明らかになった。しかも、2度、3度と転職をくり返す若者が増えている。はたして、今の若者はどのような意識のもとにキャリアを形成しているのだろうか。
これまでの経済学の研究から、比較的厳しい労働環境にいた人は、転職によって年収や就労への満足度が下がる傾向にあることが判明している。短いスパンで転職をくり返すと、再就職が難しくなり、若者のキャリアは不安定化する。これは社会的不安や社会的損失の引き金になりかねない。
ただし、大学生の意識調査などからわかるのは、若者がこれまで以上に転職をポジティブに捉えているという点だ。キーワードとなるのが、「自律的なキャリア」である。自律的なキャリアは、求職者の自己実現のための自律、労働環境の変化に対する適応のための自律という2つの意味合いをもつ。そして、こうしたキャリア観の結果として、同じ組織に所属し続けないキャリアが生まれている。
将来の予測が難しい現在、企業が与える長期的なキャリアパスに身をゆだねるよりも、労働者自身がその場の主体的な判断と行動の積み重ねで学習し、成長していくほうが適している。こうしたキャリア観が若年層の転職意欲を後押ししている。また企業側も、企業経営のパフォーマンスを評価するスパンの短期化により、ますます即戦力を求めるようになっている。企業が長期的な人材育成を担いづらくなっていることも、若者の転職を促す一因だといえよう。
このように、社会全体が若者に対し、その都度必要な場所で必要なスキルを獲得して活躍し、経済活動に寄与することを求め始めている。
転職を経験した若者は、その後どのようにキャリアを歩んでいくのか。著者は当事者のキャリアを分析するために、大学卒業後に入社した企業から転職を果たした若者15名にインタビューを行った。分析手法として選んだのは、調査対象者の経験を、時間軸を横軸にした図に落とし込み、人間の変容を社会との関係で捉えるTEMという手法である。
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