ゆとり世代はなぜ転職をくり返すのか?

キャリア思考と自己責任の罠
未読
ゆとり世代はなぜ転職をくり返すのか?
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キャリア思考と自己責任の罠
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ゆとり世代はなぜ転職をくり返すのか?
出版社
出版日
2017年08月10日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

「3年以内離職率、3割」「一つの仕事が長続きせず転職をくり返す」。ゆとり世代の現状をこのように評する声は少なくない。彼らは一社に固執せず、あたかも自発的に「自分らしいキャリア」を追い求めているように見える。だが、ちょっと待ってほしい。彼らがそうせざるを得ない「見えないメカニズム」が社会全体で働いているとしたらどうか?

「自分らしいキャリア」。この言葉がまとう違和感の正体を突き止め、若者をさらなる転職へと駆り立てる社会構造そのものにスポットライトを当てたのが本書だ。求職者の自己実現のための自律と、労働環境の変化に対する適応のための自律。若者は、これら両方の意味を含んだ「自律的キャリア」の形成を社会から促されているという。

本書ではこの経緯をたどりながら、転職を経験したゆとり世代への綿密なインタビューをもとに、彼らのキャリア意識を分析する。その後、転職をくり返す若者が将来に向けて蓄積していくリスクと、それを「自己責任」の一言で済ませる風潮に異議を投げかける。さらには、社会がこうした若者たちのキャリア形成をどう支援していくべきかを考察する。ゆとり世代と同世代である社会学者ならではの分析と提言には、真に迫るものがある。

ゆとり世代と一括りに論じられがちな若者が、いかに多様な葛藤を抱いて生きているのか。彼らのキャリアのリアルを知るのに格好の一冊だ。人事担当者や管理職といった、若者のキャリア形成を支援する人、そしてキャリア形成の当事者にぜひお読みいただきたい。

ライター画像
松尾美里

著者

福島 創太(ふくしま そうた)
1988年生まれ。教育社会学者。早稲田大学法学部卒業後、株式会社リクルートに入社。転職サイト「リクナビNEXT」の企画開発等に携わる。退社後、東京大学大学院教育学研究科修士課程比較教育社会学コースに入学し、修了。現在は株式会社教育と探求社で、中高生向けのキャリア教育プログラムの開発に従事しつつ、同大学院博士課程に在学中。

本書の要点

  • 要点
    1
    若者は「自律的なキャリア」を描くよう社会から要請されており、これが転職意欲の後押しとなっている。
  • 要点
    2
    「意識高い系」の転職者は、理想のキャリアのために必要なプロセスを想定通りに進められないリスクを抱えている。また、「ここではないどこかへ系」の転職者には、スキルや経験が蓄積されず、劣悪な労働環境を許容するというリスクがある。
  • 要点
    3
    自律的なキャリア形成の背後に企業や社会の思惑が隠蔽されている。「自己責任化」を若年層へ過度に求めることから脱却すべきだと著者は提唱する。

要約

若者の転職は問題なのか?

増加する大卒若年層の転職
Tomwang112/iStock/Thinkstock

「社会人の最初の会社はスキルを身につける場だっていうのは、就職活動をする前から思っていた」「武器を身につけて自分でキャリアを描けるようになろうと思った」。こうした若年層の答えからは、転職を視野に入れ、会社に縛られないキャリアプランを描くことが、彼らの間で普通の光景となっていることがわかる。

現在、若者の転職者は増加傾向にある。厚生労働省の調査によると、25~29歳で「初めて勤務した会社で現在勤務していない」と回答した人が、1997年には34%だったのに対し、2013年には45%になっているという。

若年転職者が増加している理由として、よく挙げられるのが非正規雇用者の増加だ。非正規雇用者は一般的に不安定で離職や転職が多くなる。しかし、これは理由の一部にすぎない。リクルートワークス研究所の調査では、2000年以降、大卒で現在正社員として働く労働者の中でも、転職経験者、転職意向をもつ人が徐々に増加していることが明らかになった。しかも、2度、3度と転職をくり返す若者が増えている。はたして、今の若者はどのような意識のもとにキャリアを形成しているのだろうか。

自律的キャリアと転職意欲

これまでの経済学の研究から、比較的厳しい労働環境にいた人は、転職によって年収や就労への満足度が下がる傾向にあることが判明している。短いスパンで転職をくり返すと、再就職が難しくなり、若者のキャリアは不安定化する。これは社会的不安や社会的損失の引き金になりかねない。

ただし、大学生の意識調査などからわかるのは、若者がこれまで以上に転職をポジティブに捉えているという点だ。キーワードとなるのが、「自律的なキャリア」である。自律的なキャリアは、求職者の自己実現のための自律、労働環境の変化に対する適応のための自律という2つの意味合いをもつ。そして、こうしたキャリア観の結果として、同じ組織に所属し続けないキャリアが生まれている。

将来の予測が難しい現在、企業が与える長期的なキャリアパスに身をゆだねるよりも、労働者自身がその場の主体的な判断と行動の積み重ねで学習し、成長していくほうが適している。こうしたキャリア観が若年層の転職意欲を後押ししている。また企業側も、企業経営のパフォーマンスを評価するスパンの短期化により、ますます即戦力を求めるようになっている。企業が長期的な人材育成を担いづらくなっていることも、若者の転職を促す一因だといえよう。

このように、社会全体が若者に対し、その都度必要な場所で必要なスキルを獲得して活躍し、経済活動に寄与することを求め始めている。

若者の転職者3つのパターン

転職を経験した若者は、その後どのようにキャリアを歩んでいくのか。著者は当事者のキャリアを分析するために、大学卒業後に入社した企業から転職を果たした若者15名にインタビューを行った。分析手法として選んだのは、調査対象者の経験を、時間軸を横軸にした図に落とし込み、人間の変容を社会との関係で捉えるTEMという手法である。

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要約公開日 2017.11.28
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