相手とともに価値を創造する交渉術、それが「バリュークリエイト交渉術」である。
バリュークリエイト交渉術を正しく理解するには、まず交渉に対する姿勢について改めて考えなければならない。一般的に「交渉」というと、いかにこちら側にとって有利な条件で商談を進めるかといったような、競争的な姿勢をイメージする人が多いだろう。
しかし、バリュークリエイト交渉術ではそもそも、WINあるいはLOSEといった思考は一切持たない。その代わりに、 相手と共に価値を創造すること、協力的な関係を築くことを最重要視する。
ある調査によると、相手と競争的な関係を築いた場合の得られる利益は50%以下に減少するが、一方で協力的な関係を築くことに成功すれば、90%以上の高い確率で利益を得られるという。
相手と協力的な関係を築くことに長ける交渉人と、一般的な交渉人の違いは何か。これを理解するためには、交渉中の行動を数値化した統計データを参照するべきだ。
平均的な交渉人の場合、(1)人にいらだちを与える発言は1時間当たり10.8回、(2)情報共有が交渉の全時間に占める割合は7.8%、(3)長期を見すえた発言が4%を占めるという。
一方、卓越したスキルを持っている交渉人の場合、(1)人にいらだちを与える発言は1時間あたり2.3回、(2)状況共有が交渉の全時間に占める割合は12.1%、(3)長期を見すえた発言が8.5%であった。
このことから、相手をいらだたせることなく、情報共有を積極的におこない、長期を見すえて話すことが、高いスキルを持った交渉人の話し方であるといえる。
市場における、利益や売上の取り合いを「パイの奪い合い」という。しかしこの発想は、資源に限りがあることを前提としている。
バリュークリエイト交渉術では、パイは奪い合うのではなく、広げていくものだと考えている。パイを広げるうえで重要なのが、発想の転換だ。そのためには、自分とは別の業界、仕事、会社との「異文化交流」を積極的におこなうといい。
たとえば、著者は隣国をビジネスの参考にしている。アメリカ、中国、タイなどの人々と情報共有をし、日本にまだない仕組みや流行を取り入れる。その代わりに、相手には日本の情報を提供する。そうすることで、相手と協力的な関係を築き、パイを広げているのだ。
「パイを広げる」という思考さえあれば、資源はいたるところにあると気づくだろう。人にとっての「価値」は、想像以上にバラエティに富んでいる。それはかならずしもお金とは限らない。経験だったり、自分にとっては当たり前の活動だったりする。ちょっとしたアイデアや、既存顧客・場所の提供が、相手の求める価値ということもあるだろう。
一例をあげると、かつてグーグルが回線工事費用の値引きを交渉した際、工事業者が要求してきたのはグーグルからの公式な推薦状だけだった。グーグルは当然これを快諾。結果、約6億円かかるはずだった工事費用は、わずか60万円で済むことになった。
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