タイトルにある「はみ出す」とは、起業や特異な職業に就くことだけではない。組織の歯車や決められたレールの上から、自らの意思で外れること全般を意味する。
「マッキンゼーからベンチャーを経て、パンツブランドの社長へ」というと、異色の経歴に見えるかもしれない。しかし、著者にとっては、これは現実的な選択であった。
著者が次期社長にならないかと誘いを受けた会社は、「TOOT(トウート)」という男性用高級下着ブランドだ。日本の自社工場で職人の手によってつくられ、その大胆なデザインが熱狂的なファンを生み出している。パンツブランドの社長として白羽の矢が立った理由は何か。それは、著者が経営コンサルティングやベンチャーでの経営企画職を通じて培ってきた、事業を回すスキルと、「発想の面白さと行動力」だった。両者の掛け算が、キャリアの選択の幅を広げるのに役立った。しかも、パンツブランドの社長という仕事は、想像以上に著者にフィットした仕事だという。
著者が発想の面白さと行動力のような「プラスアルファ」の力を身につけ、天職に出会えたのはなぜか。それは、様々な仕事や仕事以外の活動に首を突っ込んできたからだ。
もちろん一つの分野に絞って努力を続けるという道もある。しかし、その分野で成功を収められるのはほんの一握りだ。長い人生においては、色々なことに挑戦し、複数の分野で経験を積み、その掛け算で勝負したほうが、成功確率が高まるといえる。
若い人は「はみ出す」ことに特に恐怖を抱いている。ベンチャーを立ち上げる。ニッチな分野で独自の技術を誇る魅力的な中小企業に入る。こうした道があるにもかかわらず、ここ数年間の「大学生が志望する企業のランキング」には、名だたる大企業ばかりが並んでいる。「レールを踏み外す」ことへの恐怖心が、自分らしいキャリア選択を妨げており、そのせいでモヤモヤを抱えている人が多いのではないか、と著者は懸念している。
「同じ会社になるべく長く勤めたい」。この思考は非常に危険だ。どんな大手企業もずっと安泰ではない。さらには、大企業に長く勤めていると、自分は成長したつもりでも、実際にはその会社でしか通用しないスキルを身につけたにすぎない、ということもある。社会の変化が激しく、スキルが陳腐化するサイクルが短くなっていく現代においては、はみ出すキャリアのほうが合理的だともいえる。
そこで著者が薦めるのが、堅実にはみ出す「ミドルリスク・ミドルリターン」のキャリア選択だ。いきなり起業するハイリスクを負わずに、ほどよいリスクをとって納得のいくリターンを期待するというものだ。
このキャリアを選ぶメリットは、やりたいことがあいまいでも構わないという点だ。まずは、うっすらと見える「やりたいこと」に役立ちそうなスキルを得るために仕事を選ぶ。そして、自分の向き不向きを確認する。「これぞ」というチャンスが巡ってきたときには、やりがいや収入などのリターンを検証したうえで、新しい道に進んでいく。こうしたはみ出し方ならば、一歩を踏み出す勇気をもちやすいはずだ。
キャリアについて考えるとき、「やりたいこと」「できること」「求められること」の円を描いて、その三つが重なるところに、自分にフィットする仕事、つまり天職があるとよくいわれる。
ただし、「やりたいこと」ばかりを追求してもうまくいかない。まずは今、自分が「できること」「求められること」は何かを把握する。
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