『パーキンソンの法則』は、今から約60年前に歴史・政治学者のC.N.パーキンソンによって執筆された本である。60年前と聞くと、あまりに古く現代の事例には当てはまらないように感じられるかもしれない。しかし、世代を超えて伝わる法則こそが経営に真に役立つ根幹になってくれる。
本書の帯にもある「なぜわが社は『何億円もの失敗』より『タクシー代』にうるさいのか?」という問いには、「凡俗の法則」によって答えることができる。それは、「議題の一案件の審議に要する時間は、その案件にかかわる金額に反比例する」という法則である。
パーキンソンの著書では、(1)「1000万ポンドの原子炉の見積もり」、(2)「350ポンドの事務員の自転車置き場建設」、(3)「21ポンドのミーティングのお茶菓子代」という3つの議題例が紹介されている。それぞれ審議にかかる時間は(1)が2分半、(2)が45分、(3)にいたっては1時間15分だという。おまけに、議論を経たうえで、さらなる資料収集のために次回に持ち越しになるという。
パーキンソンはこれを、「人は実感が湧く範囲のことしか理解できないため」だと説明する。「〇億円の損」と聞いても直感的に把握できないため、危機感をもてないのだ。企業が多額の損失よりも、せいぜい数万円程度のタクシー代のほうにうるさくなってしまうのも同じ理屈である。
凡庸な人間でも、大きなスケールの問題を実感できることの重要性は、あらゆる仕事に及ぶ。社員が会社の問題に「自分事」として向き合うためには、会社のビジョンと自分の業務が連動していると認識できることが大切だ。
人材を採用するうえでは、応募者をたくさん集めることが重要だというのが通説である。母数が増えれば、その中によい人材が含まれる確率が上がるからだ。
しかし、パーキンソンは、とにかくたくさんの応募を集めること自体が目的化していると指摘する。大勢の応募者の中からたった一人を選び出すよりも、むしろほしい人材をほしいだけ集めるべく、自社の「求める人材像」を正確にアピールすることのほうが重要なのだ。採用基準がはっきりせず、世間で言われているもっともらしい基準に頼っていると、企業と社員とのミスマッチが生じやすくなってしまう。
パーキンソンは、なぜ組織が増殖するのか、特に公務員がなぜ増え続けるのかということについても考察している。パーキンソンによれば、役人は部下を増やすことを望むが、ライバルを増やすことは望まないのだという。そのため、自分の仕事が多いと感じたときは、同僚と分け合うのではなく、部下を2人雇って半分ずつ仕事を分担させる。その部下2人も同じ行動をとった場合、もともと1人でやっていた仕事が、7人で分担されるようになる。そうなれば一見仕事が楽になったように見えるが、実際には新たに調整業務が発生するので、結局効率は上がらない。
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