経営学者の読み方

あなたの会社が理不尽な理由

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あなたの会社が理不尽な理由
出版社
出版日
2016年05月24日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

本書は、ビジネス書から小説まで幅広いジャンルの書籍12冊と、経営学の必読論文16本を取り上げ、さまざまなテーマについて経営学者の視点で、それらの本質と応用の道をわかりやすく解説したものである。そう聞くと読書案内か、あるいは専門性の高いもののように思われるかもしれないが、そうではない。「なぜ、わが社は『何億円もの失敗』よりも『タクシー代』にうるさいのか?」といったような、多くの人にとって心当たりのある素朴な疑問を出発点に、組織が直面しがちな課題解決のヒントを探れる内容だ。親しみやすい平易な文章の中で、ビジネスパーソンとして押さえておきたい理論にふれられるという、充実の1冊である。

著者は、経営課題に対して何か「よさそうな答え」を求めようとする発想に警鐘を鳴らし、それこそが組織の停滞の原因だと指摘する。課題を認識し、「へんだぞ」と気づく「視点」こそがイノベーションの源泉になるという。その言葉通り、多種多様な視点に触れ、「気づく力」を鍛えられることこそが本書の最大の魅力だろう。

著者がまえがきで述べているように、本書で示されているのはあくまで「ガイド」であり、歩くための「くつ」に過ぎない。しかし、適切なくつがなければ、道を切り拓いて歩くことはできないのだ。本書を読んで、課題解決のための視点を多く手に入れてほしい。

著者

清水 勝彦(しみず かつひこ)
慶應義塾大学大学院経営管理研究科教授
東京大学法学部卒業。ダートマス大学エイモス・タックスクール経営学修士(MBA)、テキサスA&M大学経営学博士(Ph.D.)。戦略系コンサルティング会社のコーポレイトディレクションで10年間の戦略コンサルティング経験のあと、研究者に。専門分野は、経営戦略立案・実行とそれに伴う意思決定、M&A、戦略評価と組織学習。テキサス大学サンアントニオ校准教授(2000~2010年、テニュア取得)を経て、2010年4月から現職。Academy of Management Journal, Strategic Management Journal,Organization Scienceなどトップレベルの国際学会誌に論文を発表するだけでなく、4誌の編集委員(editorial board member)を務める。主な著書に『戦略の原点』、『戦略と実行 組織的コミュニケーションとは何か』、『実行と責任 日本と日本企業が立ち直るために』(すべて日経BP社)、『組織を脅かすあやしい「常識」』(講談社)、訳書に『事実に基づいた経営 なぜ「当たり前」ができないのか?』、監訳に『ワイドレンズ』(ともに東洋経済新報社)。

本書の要点

  • 要点
    1
    人は感覚的に把握できる範囲のことしか理解できない。そのため、数億円規模の投資の失敗よりも、数千円程度の小銭の用途に敏感になる傾向にある。
  • 要点
    2
    会社が理不尽に思えるのは、社会通念から逸脱しないための「同質化」のメカニズムにより、ときに非合理な判断がなされるためだ。非合理な前提の中でも合理的に活動するためには、社内外における「本音と建前の使い分け」、「その食い違いを許容する信頼関係」が必要である。
  • 要点
    3
    会社の理不尽さを考察するのに「制度派理論」が役立つように、理論は現状を正しく理解するツールとなる。

要約

パーキンソンの3つの法則

凡俗の法則

『パーキンソンの法則』は、今から約60年前に歴史・政治学者のC.N.パーキンソンによって執筆された本である。60年前と聞くと、あまりに古く現代の事例には当てはまらないように感じられるかもしれない。しかし、世代を超えて伝わる法則こそが経営に真に役立つ根幹になってくれる。

本書の帯にもある「なぜわが社は『何億円もの失敗』より『タクシー代』にうるさいのか?」という問いには、「凡俗の法則」によって答えることができる。それは、「議題の一案件の審議に要する時間は、その案件にかかわる金額に反比例する」という法則である。

パーキンソンの著書では、(1)「1000万ポンドの原子炉の見積もり」、(2)「350ポンドの事務員の自転車置き場建設」、(3)「21ポンドのミーティングのお茶菓子代」という3つの議題例が紹介されている。それぞれ審議にかかる時間は(1)が2分半、(2)が45分、(3)にいたっては1時間15分だという。おまけに、議論を経たうえで、さらなる資料収集のために次回に持ち越しになるという。

パーキンソンはこれを、「人は実感が湧く範囲のことしか理解できないため」だと説明する。「〇億円の損」と聞いても直感的に把握できないため、危機感をもてないのだ。企業が多額の損失よりも、せいぜい数万円程度のタクシー代のほうにうるさくなってしまうのも同じ理屈である。

凡庸な人間でも、大きなスケールの問題を実感できることの重要性は、あらゆる仕事に及ぶ。社員が会社の問題に「自分事」として向き合うためには、会社のビジョンと自分の業務が連動していると認識できることが大切だ。

人選の法則
scyther5/iStock/Thinkstock

人材を採用するうえでは、応募者をたくさん集めることが重要だというのが通説である。母数が増えれば、その中によい人材が含まれる確率が上がるからだ。

しかし、パーキンソンは、とにかくたくさんの応募を集めること自体が目的化していると指摘する。大勢の応募者の中からたった一人を選び出すよりも、むしろほしい人材をほしいだけ集めるべく、自社の「求める人材像」を正確にアピールすることのほうが重要なのだ。採用基準がはっきりせず、世間で言われているもっともらしい基準に頼っていると、企業と社員とのミスマッチが生じやすくなってしまう。

組織が増殖する理由

パーキンソンは、なぜ組織が増殖するのか、特に公務員がなぜ増え続けるのかということについても考察している。パーキンソンによれば、役人は部下を増やすことを望むが、ライバルを増やすことは望まないのだという。そのため、自分の仕事が多いと感じたときは、同僚と分け合うのではなく、部下を2人雇って半分ずつ仕事を分担させる。その部下2人も同じ行動をとった場合、もともと1人でやっていた仕事が、7人で分担されるようになる。そうなれば一見仕事が楽になったように見えるが、実際には新たに調整業務が発生するので、結局効率は上がらない。

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要約公開日 2017.09.27
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