誰もが深く信じていることが実は間違っているケースは多い。人間はひとたび自分の直感にとらわれると、外から得た情報を、先入観をもって判断してしまう。錯覚画像を見て、その種明かしをされていても、何度も目の錯覚に陥るのも同様である。こうしたことが起きるのは、人間の脳が、現実の世界を理解しやすい形に変えてしまうからだ。大事なのは、自分の直感が選んだ選択肢が本当に正しいのかどうかを考えることである。
私たちは人生の目的や目標、願望といった壮大なもののために日々の行動があると考えがちだ。しかし、実際には、それらは日々の行動とはまったく結びつかず、不合理な選択をしてしまう。
その端的な例として、ヨーロッパ各国によって、臓器提供プログラムに関心を示した人の割合が歴然と違う、という事実を取り上げよう。調査によると、臓器提供カードにサインしている人の割合が100%もしくはそれに限りなく近い国と、10%前後の国に分かれているという。両者の内訳を見ると、法律や宗教、文化は似ているのに、なぜなのか。
この違いを生んだ原因はカードの書式にある。「臓器提供プログラムに参加したい人はチェックしてください」という形式では、ほとんどが参加しない。一方、「参加したくない人はチェックしてください」という形式では、ほとんどの人がチェックをせず、プログラムに参加することになる。前者はオプトイン方式、後者はオプトアウト方式と呼ばれる。
臓器を提供するかどうかというのは極めて難しい意思決定だ。人は難題に直面すると他者に決定を委ねようとするため、初めの書式の設定、「デフォルト(標準設定)」が決定的な役割を果たす。デフォルトを選ぶのが一番楽であるし、それを積極的に提案されているとさえ思ってしまう。このように、人間の行動は与えられる環境に大きく左右される。
この事実から学べるのは、環境、つまり選択までの道筋の設計の重要性である。人は手間をかけることが想像以上に嫌いな生き物だ。さらには、選択肢が複雑で面倒になると、楽な道を選ぶ可能性がいっそう高くなる。人間の怠慢さを軽視しないようにしたい。
例えば、肥満の問題を解決するために、みんなに食べる量を減らし、ダイエットをするよう促したいとする。対策として、お皿を小さくするのは有効だ。大きなお皿に料理が少ししかのっていないと、食べた気がしない。私たちは食べた量を目でも判断しているため、お皿の大きさは重要だ。
また、こんなバス停がある。ベンチが体重計になっていて、座ると体重が壁に表示される。これによりバスを待つ人に「次のバス停まで歩きましょう」というメッセージを伝えられる。
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