社会保障には市民一人ひとりに関わるミクロな面と、経済学者などの専門家が関心をもつマクロな面とがある。しかも専門家の間でも、社会保障に関する見解は異なっている。医療や介護の現場にいる人や社会保障の学者は「給付」を中心に、経済学者はファイナンスを中心に考えてしまう。
そもそも社会保障の全体像を理解することは大変難しく、正しい理解が不十分なのが現状だ。そこで、長年社会保障に携わってきた著者が、社会保障をある種の「一般教養」として人々に理解してもらうために書いたのが本書である。
国家が担う近代社会保障は、産業革命と軌を一にして始まった。産業革命により、資本家と多数の労働者という階級が生まれた。労働者と資本家の階級対立は、社会の不安定化を招いていった。
この社会不安を解消するために生まれたのが近代社会保障制度である。その後、イギリスでは第二次大戦後に、国家の普遍的な機能として福祉国家の理念が語られるようになり、日本では1961年に国民皆保険・皆年金が達成された。
現在の日本では、社会保障は「国民の『安心』や生活の『安定』を支えるセーフティーネット」であると定義される。現行制度は自助を中心に共助が支えるという仕組みである。
セーフティーネットの目的は、リスクを取ることを可能にすることである。経済活動は常に競争にさらされる。そのため、人々が思い切った決断ができ、失敗してもやり直しができるというように、自己実現に向けた挑戦を支える存在が必要だ。こうした役割を果たしてくれる社会保障は、社会の発展の基盤といえる。
一般的に社会保障の議論では、年金額、保険額、介護、子育てなど、国民一人一人の目から見たミクロな面にフォーカスすることが多い。一方、今後の国の社会保障をどのように維持するかということを、マクロな面からとらえることも同様に重要である。現在、人口減少・少子高齢化が進んでいるため、これまでと同じように考えていたのでは、問題を正しく議論できない。
社会保障は経済・財政と密接不可分な関係にある。財政再建と経済成長と社会保障の機能強化をトータルで考えなければならない。人口が減少しているため、これまでと同じ経済活動をしていたのでは、自動的にマーケットが小さくなる。よって、新たな需要をつくり出すなど、少ない労働力で生産性を上げることが急務である。
3,400冊以上の要約が楽しめる