生物はウイルスが進化させた

巨大ウイルスが語る新たな生命像
未読
生物はウイルスが進化させた
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巨大ウイルスが語る新たな生命像
未読
生物はウイルスが進化させた
ジャンル
出版社
出版日
2017年04月20日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

本書は、今までの生物の定義や生物進化の考え方を覆してしまうような、画期的な考えを紹介している、生命科学の本である。

近年、従来のウイルスの概念にあてはまらないような、巨大ウイルスが続々と発見されている。この巨大ウイルスのゲノム解析が進むにつれ、単純な構造をした、単独では増殖もできない非生命体と考えられてきたウイルス観が打ち破られつつある。

ウイルスは、自分の体を構成するタンパク質を自力で作れない。ウイルス粒子は、宿主である細胞に入り込むと、宿主のタンパク質合成システムを乗っ取り、自分のコピーを大量に作る。そして、その細胞から大量にウイルス粒子を放出するというサイクルを繰り返して増殖する。その増殖の過程において、自らのゲノムと宿主のゲノムが混在することで、遺伝子が異種の生物間で渡ることになり、生物の進化が促されてきた側面があるという。

それどころか、生物ではない、とされてきたウイルスだが、「ウイルスに感染した細胞こそがウイルス本体である」と見方を変えることで、ウイルスも一種の細胞性生物であると見なせるという、従来の常識を覆す学説まで登場してきたのだ。巨大ウイルスの発見から、短期間のうちに従来の生命像を覆してしまうほど、近年の生命科学の進歩は著しい。大流行しているゲノム編集の原理までわかってしまう、最新の生命科学の入門書である。

ライター画像
谷田部卓

著者

武村政春(たけむら・まさはる)
一九六九年、三重県津市生まれ。一九九八年、名古屋大学大学院医学研究科修了。医学博士。名古屋大学助手等を経て、現在、東京理科大学理学部第一部教授。専門は、巨大ウイルス学、生物教育学、分子生物学、細胞進化学。著書に『DNA複製の謎に迫る』『生命のセントラルドグマ』『たんぱく質入門』『新しいウイルス入門』『巨大ウイルスと第4のドメイン』(いずれも講談社ブルーバックス)のほか、『レプリカ~文化と進化の複製博物館』(工作舎)、『DNAの複製と変容』(新思索社)、『ベーシック生物学』(裳華房)、『マンガでわかる生化学』(オーム社)など多数。趣味は書物の蒐集、読書、ピアノ、落語、妖怪など。

本書の要点

  • 要点
    1
    近年、従来のウイルスの概念を覆すような巨大ウイルスが続々と発見されている。それらは、小型の細菌をも凌駕するほどの、粒子とゲノムサイズの大きさを持っている。
  • 要点
    2
    ウイルスのゲノム解析より、宿主である生物とウイルスのあいだでは、様々な遺伝子が移動していることがわかっている。ウイルスは生物の進化に大きな役割を果たしているといえる。さらに近年、巨大ウイルスのゲノムに、不完全ながらタンパク質合成のための遺伝子が見つかったことは、新たな謎を呼んでいる。
  • 要点
    3
    生物ではないとされてきたウイルスが、実は生物の概念を打ち破るような生物であると見なせるという学説まで登場している。

要約

巨大ウイルスの衝撃

巨大ウイルスの発見
RichLegg/iStock/Thinkstock

従来のウイルス研究は、「ウイルス=厄介者」という見地に立ったものがほとんどだった。しかし、近年は、「ウイルス=地球生態系になくてはならないもの」という見方が広がっている。そのきっかけの1つとなったのが、巨大ウイルスの発見だ。

ウイルスは、遺伝子の本体であるDNAもしくはRNAを、「カプシド」というタンパク質の殻で包み込んでいるものが基本形で、簡単な構造をしている。そして、一般的なウイルスは、10数ナノメートルから200ナノメートルという、電子顕微鏡でしか見ることができない極小サイズである。ところが2003年に、フランスで800ナノメートルにも達する巨大なウイルス「ミミウイルス」が発見された。この大きさは、細菌の小型サイズのものと同程度だ。そのため、ミミウイルスは当初細菌だと思われていたのだが、細菌に必ずあるはずのタンパク質合成装置「リボソーム」を備えていなかったため、ウイルスだとわかったのである。

ミミウイルスをアカントアメーバに感染させると、アカントアメーバの表面にへばりついて、その細胞内に取り込まれる。アメーバのような多くの細胞は、自分の表面に付着した異物を細胞膜で取り込んで食べてしまう性質があるのだ。通常であれば、異物は細胞内の「ファゴソーム」という膜で閉じ込められ、消化酵素で消化されてしまう。しかしファゴソーム内に取り込まれたミミウイルスは、ファゴソーム膜と融合し、自分のDNAをアカントアメーバの細胞質内に注入する。そしてそのDNAは複製を繰り返し、アカントアメーバ内部に「ウイルス工場」を作り上げる。生産された多数のミミウイルス粒子は、アカントアメーバを壊して外部へ放出される。

巨大なゲノムサイズ
Jezperklauzen/iStock/Thinkstock

ミミウイルスの発見以降、巨大ウイルスは多く発見されている。日本でも著者が荒川で発見し、「トーキョーウイルス」と命名した。

巨大ウイルスは、粒子の大きさが巨大なだけではない。重要なのは、遺伝情報、すなわちゲノムも巨大なサイズだったことである。ゲノムとは、具体的にはDNA全体のことである。

一般的に、ゲノムサイズが大きいと、多くの遺伝子を含んでいるため、複雑な体の構造をしている。単細胞生物より多細胞生物のほうがゲノムサイズも大きく、ゲノムサイズが小さいウイルスは生物より単純な体だと考えられてきた。しかし巨大ウイルスは、従来の研究からは考えられないほどゲノムサイズが大きく、小型の細菌や一部の真核生物を凌駕しているものさえある。つまり、巨大ウイルスが備える巨大なゲノムは、まだ知られていない複雑な仕組みや、その可能性を示唆しているのだ。

細胞の中で巨大ウイルスは何をしているのか

ウイルス工場の存在

前述のように、ウイルスはほかの生物の細胞の中で増殖する。まず、宿主の細胞質内もしくは細胞核内のどこかで、ウイルスは遺伝子情報を転写し、複製する。それを宿主の「リボソーム」が読み取り、アミノ酸をつなげてタンパク質をつくる。

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要約公開日 2017.09.10
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