新・新装版 トポスの知

[箱庭療法]の世界
未読
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[箱庭療法]の世界
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新・新装版 トポスの知
出版社
CCCメディアハウス
出版日
2017年03月25日
評点
総合
4.2
明瞭性
4.0
革新性
4.5
応用性
4.0
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おすすめポイント

箱庭療法をご存知だろうか。箱庭療法とは、箱庭をつくる人(患者)が、一つの箱の中に様々な玩具などの材料を配置して、自分の世界を表現するものである。セラピスト(治療者)は、箱庭がつくられる過程では解釈を挟まず、見守ることに徹する。治療者との良好な関係のもとで、患者が箱庭をつくっていくと、本来備わっている自己治癒の力が発揮され、心身症などの症状の改善につながっていくという。(もちろん簡単に人が治癒されるということではないが。)

著者の河合隼雄氏は日本におけるユング心理学研究の第一人者としてあまりに有名で、箱庭療法の日本への普及に努めてきた。本書では、河合氏が経験した事例を実際の箱庭の写真とともに示しながら、そこに表現された世界との向き合い方について解説している。

もう一人の著者である中村雄二郎氏は、哲学者の立場から箱庭療法を読み解いていく。読者は二人のかけ合いに引き込まれながら深い気づきを得られるだろう。両氏の織りなす世界自体が一種の「宇宙」のように壮大で、読む者を引きつけて離さない。

本書は1984年に初版が、1993年に新装版が出た後、絶版となっていたが、このたび復刻新装版として刊行された。初版から長い年月が経過したにもかかわらず、内容はいっこうに色あせない。今なお新鮮さを帯びているのは、「場=トポス」という観点が、現代社会の様々な問題に有益な視座を与えてくれるからだろう。この名著を通じて、箱庭に表現される人間の本質に思いを馳せてみてはいかがだろうか。

ライター画像
河原レイカ

著者

河合 隼雄(かわい はやお)
1928年、兵庫県多紀郡篠山町(現・篠山市)出身。心理学者。京都大学名誉教授、国際日本文化研究センター名誉教授。文化功労者。元文化庁長官。専門は分析心理学(ユング心理学)、臨床心理学、日本文化、学位は博士(教育学)。日本人として初めてユング研究所にてユング派分析家の資格を取得し、日本における分析心理学の普及・実践に貢献した。また、箱庭療法を日本へ初めて導入。臨床心理学・分析心理学の立場から1988年に日本臨床心理資格認定協会を設立し、臨床心理士の資格整備にも貢献した。著書多数。2007年逝去。

中村 雄二郎(なかむら ゆうじろう)
1925年、東京都出身。哲学者。明治大学名誉教授。東京大学文学部卒業後、文化放送に入社。その後、明治大学法学部教授を長く務めた。西洋哲学をはじめ日本文化・言語・科学・芸術などに目を向けた現代思想に関する著書が多数あり、主要著作は『中村雄二郎著作集』(岩波書店、第1期全10巻・第2期全10巻)に収められている。山口昌男と共に1970年代初めから雑誌『現代思想』などで活躍、1984年から1994年まで『へるめす』で磯崎新、大江健三郎、大岡信、武満徹、山口昌男とともに編集同人として活躍した。

本書の要点

  • 要点
    1
    箱庭療法は、一般的傾向として、非言語的コミュニケーションが得意な日本人に向いている。
  • 要点
    2
    箱庭療法では、治療者と患者との間に安定した信頼関係が生まれることで、患者が内的な表現ができるようになり、治療が進んでいく。
  • 要点
    3
    治療者に大事な姿勢は、患者がつくった箱庭の解釈よりも鑑賞を重視することである。
  • 要点
    4
    箱庭療法は、コスモロジー、シンボリズム、パフォーマンスの三つの要素を備えており、これは都市論の原理と重なる。

要約

箱庭療法とは何か

日本に箱庭療法が普及したいきさつ
kudou/iStock/Thinkstock

箱庭療法は、本書の初版が出たときすでに日本で広く使用され、効果をあげている心理療法の一つである。簡単にいえば、患者が継続的に箱庭をつくるうちに、治療が進んでいくというものだ。河合隼雄氏は、スイスにあるユング研究所に留学した際、箱庭療法を熱心におこなっていたカルフ氏と出会い、箱庭療法を知った。

著者自身が箱庭をつくってみて、興味深いものだと実感した。その理由の一つは、箱庭をつくる伝統が日本に昔から存在し、大人も子どもも抵抗なく取り組めると考えられたためだ。ユングの精神分析では、患者に絵を描いてもらうことが多いが、絵が苦手な人は描くことにためらったり、思い通りに表現できなかったりする。これに対し、日本人が非言語的コミュニケーションを得意とするという点からも、非言語的に内面を表現する箱庭療法は日本人向きだといえる。

箱庭療法でキーとなる「母子一体性」

河合氏に箱庭療法を紹介したカルフ氏は、治療者と患者の関係に注目していた。箱庭をつくるといっても、その人の内面にある世界「内界」を開示するので、その基盤には安定した関係がなくてはならない。カルフ氏は、それを「母子一体性」と表現しており、母子のような深い関係があってはじめて治療が進むという。

また、カルフ氏は、ユング心理学を用いて箱庭の表現を象徴的に解釈する方法を発展させた。箱庭をつくることによって、患者の「自己実現」が促進され、自ら治っていくということを明らかにしていったのである。

箱庭療法の普及と課題

河合氏は1965年にユング派精神分析家の資格を得て、日本に帰国した。そして、さっそく箱庭療法を使ってみると、治療効果が上がることが分かったため、日本国内での箱庭療法の普及に努めた。河合氏が留意したのは、治療者となる人に一度は箱庭をつくってもらうことである。治療者自身が箱庭療法を体験することが一番大切だと考えたからだ。

最初は、ユング心理学による象徴解釈について一切述べずに、事例から直接学ぶように心掛けた。時には「解釈するより、鑑賞すること」と伝えることもあったという。なぜなら、箱庭療法では治療者と患者の関係が重要であり、治療者が最初から「知ったかぶり」の姿勢で臨むと、その関係が壊れてしまう可能性があるからだ。

また、箱庭は写真を撮影して人に見せることができる。この直接性や具象性のために理解されやすいという点も手伝って、日本での注目が高まっていった。

一方で、箱庭療法の発展とともに課題も出てきた。子どもから成人、心身症や精神病の人にまで、幅広く適用されるようになったが、箱庭療法ですべての人が治るわけではない。治療者は箱庭について解釈を加えずに、箱庭をつくる場に居るだけでよいとはいうものの、治療者の人間としての「器の大きさ」が試される場面が多く出てきた。患者に箱庭をつくってもらっても、治療への流れが発生せずに堂々巡りに陥ったり、破壊的になったりしてしまうことがある。

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要約公開日 2017.10.06
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