アップルの創業者であるスティーブ・ジョブスは、2011年にすい臓がんで逝去した。初期段階で外科手術を拒否し、怪しげなカルト療法を信じたため、がんが転移してしまい治療が遅れてしまったのだ。
また、元NHKアナウンサーの絵門ゆう子さんも、乳がんの告知を受けたあと、手術を拒否した。そして「宇宙エネルギー」や「波動」、健康食品など、さまざまなニセ科学にお金をつぎ込み、49歳で亡くなった。
このように、たとえ高い知性の持ち主でも、人はニセ科学にはまりこんでしまうものだ。人の心理には、もともと何かを信じやすい傾向がある。脳は、網膜に写った映像をそのまま認識しているのではなく、実際には欠落した部分を埋めるなど編集し、パターン化して認識している。このことは、無関係のものまで関連づけする危険性を持ち、実在しないものまで信じ込む原因にもなっている。
ニセ科学を受け入れてしまうのには心理的要因もある、権威ある情報源や、コミュニケーション的に価値があるもの(血液型性格判断がその代表例だ)を無批判で受け入れてしまったり、体験談のなかから都合のよい部分だけを受け入れてしまったりする性質が、私たちの心理には備わっている。加えて、自分に都合のよい事実だけしか見えなくなる「確証バイアス」もある。
このように、私たちの思考は完全ではないので、ひとつのことをいろいろな角度から柔軟に捉える姿勢が必要である。
ニセ科学は、とくに健康をめぐる分野で蔓延している。病気の不安につけこむような、科学的根拠のない健康情報がとんでもなく多いのだ。
そこで威力を発揮しているのが「体験談」である。体験談は、いくらでも捏造することが可能だ。それに、仮にその体験談が本当だったとしても、治った原因がその健康食品だったどうかはわからない。薬や食品の有効性を確認することは非常に困難であり、試験管レベルや動物実験レベルですら科学的根拠は薄い。当然、根拠として体験談はさらに弱いといえる。
ニセ科学を担いでいたとある著名な経営コンサルタントは、マーケティング理論に精通していた。彼は人を「先覚者」、「素直な人」、「普通の人」、「抵抗者」の4つに分類し、最初に信じやすい「先覚者」タイプの人をターゲットにしていた。「先覚者」タイプは人口の2%いると言われ、比較的女性に多いという。「先覚者」の3割程度が動くと、今度は人口の20%を占める「素直な人」の半分が同調する。すると、70%弱の「普通の人」まで動き出し、ブームとなるのだ。
がんの標準治療には、手術・薬物療法・放射線治療の3つがある。標準治療以外の療法は、科学的に有効性が確認されていないため、標準治療を受けることが最もよい選択と考えられる。もし標準治療でない療法に、標準治療をしのぐ効果があるのなら、すでに標準治療の仲間入りをしているはずだ。
たとえば、一般的に売られている「抗がんサプリ」は、当然ながらどれも標準治療とは見なされていない。有名な抗がんサプリとして、きのこの一種であるアガリクスが挙げられるが、実際にはがんに効くどころか、肝機能障害の原因物質としてウコンに次いで被害が多い。それどころか、動物実験ではアガリクス製品には発がん促進効果が認められているという。
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