暮らしのなかのニセ科学

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暮らしのなかのニセ科学
出版社
出版日
2017年06月15日
評点
総合
4.2
明瞭性
4.0
革新性
3.5
応用性
4.5
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おすすめポイント

現代人は、たえまない情報の洪水で溺れかかっている。さらにフェイクニュースのような存在も考慮すると、もはやどの情報を信じてよいのか、ますます見分けがつかなくなっているといえよう。

こうした状況を逆手にとり、科学的な根拠がないモノを、さもあるかのように売りつけている人々が後を絶たない。とくに、健康法や健康食品は、ワラをもつかみたい人を餌食にする悪質な商売だ。人間は、弱っているときこそだまされてしまう。たとえば、アップル社の創業者スティーブ・ジョブスがそうだったように。

科学的な根拠のない商品は、日常のいたるところに転がっている。しかし著者によれば、世の中にある健康食品や健康飲料のほとんどは、その効能に科学的根拠がないという。もし本当に治癒効果があるなら、医薬品として承認されるはずだからである。

本書は、現代社会に溢れている健康食品や健康法を調査し、「科学的根拠がない!」と一刀両断する快著だ。無農薬野菜に潜むリスク、ミネラルウォーターを上回る水道水の安全性、マイナスイオンやプラズマクラスターの意味のなさなど、私たちの「常識」に反する指摘も数多い。

すべての健康食品や健康法の科学的根拠を、市井の人がひとつずつ確認することは、現実的には不可能である。だからこそ、専門家による調査・考察の重要性は計り知れない。悪質な文言にだまされたくなければ、本書を読むべきだ。

ライター画像
谷田部卓

著者

左巻 健男(さまき たけお)
1949年、栃木県生まれ。千葉大学教育学部卒。東京学芸大学大学院教育学研究科修士課程修了。専門は理科教育。東京大学教育学部附属中学校・高等学校教諭、京都工芸繊維大学教授、同志社女子大学教授などを経て、現在、法政大学教職課程センター教授、「RikaTan(理科の探検)」編集長。著書に『水はなんにも知らないよ』(ディスカヴァー携書)、『病気になるサプリ』(幻冬舎新書)、『面白くて眠れなくなる理科』『面白くて眠れなくなる化学』(以上、PHP文庫)、『水の常識ウソホント77』(平凡社新書)など多数。

本書の要点

  • 要点
    1
    人はだまされやすい生き物である。スティーブ・ジョブスのような高い知性の持ち主でも、ニセ科学にはまりこむことはままある。
  • 要点
    2
    ニセ科学は、とくに健康をめぐる分野で蔓延している。病気への不安につけこむような、怪しげな健康情報に気をつけるべきだ。
  • 要点
    3
    健康食品は、有効性や安全性の科学的根拠がなくても販売できてしまう。サプリの有効性や安全性は、科学的に証明されているわけではない。
  • 要点
    4
    水に関する商品にはとくに気をつけるべきだ。水素水、マイナスイオン水、波動水などは、すべて科学的根拠がない。

要約

【必読ポイント!】 ニセ科学をなぜ信じるのか

人は誰でもだまされる
wildpixel/iStock/Thinkstock

アップルの創業者であるスティーブ・ジョブスは、2011年にすい臓がんで逝去した。初期段階で外科手術を拒否し、怪しげなカルト療法を信じたため、がんが転移してしまい治療が遅れてしまったのだ。

また、元NHKアナウンサーの絵門ゆう子さんも、乳がんの告知を受けたあと、手術を拒否した。そして「宇宙エネルギー」や「波動」、健康食品など、さまざまなニセ科学にお金をつぎ込み、49歳で亡くなった。

このように、たとえ高い知性の持ち主でも、人はニセ科学にはまりこんでしまうものだ。人の心理には、もともと何かを信じやすい傾向がある。脳は、網膜に写った映像をそのまま認識しているのではなく、実際には欠落した部分を埋めるなど編集し、パターン化して認識している。このことは、無関係のものまで関連づけする危険性を持ち、実在しないものまで信じ込む原因にもなっている。

ニセ科学を受け入れてしまうのには心理的要因もある、権威ある情報源や、コミュニケーション的に価値があるもの(血液型性格判断がその代表例だ)を無批判で受け入れてしまったり、体験談のなかから都合のよい部分だけを受け入れてしまったりする性質が、私たちの心理には備わっている。加えて、自分に都合のよい事実だけしか見えなくなる「確証バイアス」もある。

このように、私たちの思考は完全ではないので、ひとつのことをいろいろな角度から柔軟に捉える姿勢が必要である。

あふれる健康情報と体験談

ニセ科学は、とくに健康をめぐる分野で蔓延している。病気の不安につけこむような、科学的根拠のない健康情報がとんでもなく多いのだ。

そこで威力を発揮しているのが「体験談」である。体験談は、いくらでも捏造することが可能だ。それに、仮にその体験談が本当だったとしても、治った原因がその健康食品だったどうかはわからない。薬や食品の有効性を確認することは非常に困難であり、試験管レベルや動物実験レベルですら科学的根拠は薄い。当然、根拠として体験談はさらに弱いといえる。

ニセ科学を担いでいたとある著名な経営コンサルタントは、マーケティング理論に精通していた。彼は人を「先覚者」、「素直な人」、「普通の人」、「抵抗者」の4つに分類し、最初に信じやすい「先覚者」タイプの人をターゲットにしていた。「先覚者」タイプは人口の2%いると言われ、比較的女性に多いという。「先覚者」の3割程度が動くと、今度は人口の20%を占める「素直な人」の半分が同調する。すると、70%弱の「普通の人」まで動き出し、ブームとなるのだ。

サプリと健康食品

がんをめぐるニセ科学
karenfoleyphotography/iStock/Thinkstock

がんの標準治療には、手術・薬物療法・放射線治療の3つがある。標準治療以外の療法は、科学的に有効性が確認されていないため、標準治療を受けることが最もよい選択と考えられる。もし標準治療でない療法に、標準治療をしのぐ効果があるのなら、すでに標準治療の仲間入りをしているはずだ。

たとえば、一般的に売られている「抗がんサプリ」は、当然ながらどれも標準治療とは見なされていない。有名な抗がんサプリとして、きのこの一種であるアガリクスが挙げられるが、実際にはがんに効くどころか、肝機能障害の原因物質としてウコンに次いで被害が多い。それどころか、動物実験ではアガリクス製品には発がん促進効果が認められているという。

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要約公開日 2017.09.30
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