未来は極めて不確実である。これは、ビジネスの現場では共通認識となって久しい事実だ。消費者ニーズは多様化し、移り変わりも速い。当然、商品やサービスの寿命は短くなっている。
このような時代では、企業は顧客とともにビジョンを創っていく必要がある。ビジョンとは、ミッションを実現するために具体的に何に取り組むかという指標だ。顧客の消費活動や購買意欲を促す潜在的な欲求のスイッチ、すなわち「顧客インサイト」をあぶり出し、商品やサービス開発に反映させていかなければならない。
たとえば、博多マルイは九州初出店において、顧客の声をダイレクトに聞く「お客様企画会議」を400回も実施したという。その結果、あのファッションのマルイで「だし」や高級ジュースが売られることになった。つまり、それまでのセオリーに反して、1階と2階部分を食料品売り場にしたのだ。その結果、今では多くのお客様が列をなし、博多マルイは人気店となっている。
組織を変えるのは容易ではない。特に大企業や成熟企業では、いわゆる「大企業病」にかかるのが定めだと著者は経験則から考えている。「内向き、上向き、縦割り」の影響で組織の部分最適化が進むと、どうしても組織の隙間に落ちたボールを誰も拾わないということが起こってしまう。
だが、この隙間こそがイノベーションの源泉なのである。イノベーションとは、経済学者ジョセフ・シュンペーターが「新結合」と表したように、既存の知と既存の知の新しい組み合わせから生じる。イノベーションには「持続的イノベーション」と「破壊的イノベーション」の2つがあり、早稲田大学ビジネススクールの入山章栄准教授は、前者を「知の深化」、後者を「知の探索」と呼んでいる。
持続的イノベーションでは、課題が明らかなので、その解決方法を深掘りしていくことが求められる。一方、破壊的イノベーションでは、課題の特定または抽出が求められる。今の時代に求められるのは後者だ。
とはいえ、破壊的イノベーションは収益に結びつくかどうか不確実であり、仮説検証と失敗を重ねていかなければ真の課題が見えてこないケースも多い。しかし、だからといって、既存製品の改良ばかりになってしまわないよう、注意を払わなければならない。
富士フイルムは、まさにこの知の探索からイノベーションを起こし、経営危機を見事に脱した好例だ。
写真フィルム関連事業の利益が全体の3分の2を占めていた富士フイルムは、デジタルカメラの登場でマーケットを急速に奪われていた。売上は毎年数千億単位で目減りし、一時期は経営危機に陥ってしまった。
しかし、彼らは写真フィルムの成功にとらわれなかった。まったく異なる領域の知を掛け合わせ、新たな価値を生み出した。それが化粧品ビジネスだ。フィルムの構造と肌の構造が近似しており、ナノ浸透やジェル化などの技術にフィルムの技術を応用できることに気づいたのである。
もし、あのとき富士フイルムが過去の成功体験に固執し、写真フィルム事業の改善にこだわっていれば、会社の存続は難しかったかもしれない。
既存の技術や製品の改良にとどまらず、新たな価値を生み出し続けるには、どのようなリーダーシップが適しているだろうか。
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