インターネットは自由を奪うの表紙

インターネットは自由を奪う

〈無料〉という落とし穴


本書の要点

  • 国防と公益を目的として開発されたインターネットは、1990年代初めから商用利用されはじめ、あっという間に新しい経済格差を生んだ。独占的なネットワークを築いたIT企業は、既存の産業を破壊し、雇用を消失させている。

  • 少ない従業員で大きな富を得るIT企業の陰の労働者として、消費者のわれわれがいる。「無料」でサービスを利用しているという認識のもと、われわれは投稿やツイートなどで企業のためにコンテンツをつくり、企業の広告収入のために個人情報を渡しているのだ。

  • 規制のないネットワーク社会で生まれた格差を解消するためには、独占企業に規制をかけ、インターネット自体の成熟を促すことが必要だ。

1 / 4

インターネットの歴史

国防と公益のための発明

javarman3/iStock/Thinkstock

インターネットの始まりは、第二次世界大戦のころにまでさかのぼる。当時、ドイツ空軍の戦闘機の追跡システムを開発しようとしていたのが、アメリカのトップクラスの科学技術者が集まっていたマサチューセッツ工科大学(MIT)の研究者たちだ。彼らの研究のなかで生まれたのが、「サイバネティックス」という通信理論や、「考える機械」という発想である。これらがコンピュータ科学の発展を下支えすることになった。その後、大戦後の平和も束の間、東西冷戦が激化していった。ソ連による核攻撃に耐える通信ネットワークを考えるべく、「センター・ツー・センター」でなく「ユーザー・ツー・ユーザー」の分散型ネットワークを構想したのが、ポール・バランだ。バランは、情報を小分けにして送信することも思いついた。さらに、ネットワーク間をつなぐTCP/IPプロトコルが開発され、インターネットは急速に発展していった。あらゆる情報をつなげるワールドワイドウェブ(WWW)が構築されたのは、1990年のことである。

収益化の時代

インターネットの歴史の第二幕は、1990年代初めからスタートする。アメリカ政府がインターネットバックボーンであるNSFNET(全米科学財団ネットワーク)を閉鎖し、民間のインターネットプロバイダーがその役割を担うことになった。国防と公益を目的として開発されてきたインターネットは、以降「収益化」されていった。WWWを、高度なプログラミングスキルがなくても使えるようにしたのが、ネットスケープコミュニケーションズが配布したウェブブラウザだ。1994年、ネットスケープ社は、ベンチャーキャピタル企業から500万ドルの投資を受けた。ウェブ事業へこれだけの金額が投機されたのは初めてのことだった。そこから約1年後、ネットスケープ社は株式公開され、7億6500万ドルもの配当がベンチャーキャピタル企業に転がり込んだ。このIPOの大成功は「ネットスケープ・モーメント」として知られ、インターネットの商用利用を加速させ、若いIT長者たちを続々と生み出すこととなった。経済の中心地はウォール街から西部へ移り、ベンチャーキャピタル企業から、アマゾン、フェイスブック、グーグルのようなIT企業にどっと資本が流れ込んだ。新しいインターネット経済は、「勝者総取り経済」の様相を呈し、新しい格差を創出した。オンライン市場では、ファーストムーバー・アドバンテージを得た一握りの企業が、独占的なネットワークを構築した。オンライン商取引において絶大な支配力をもつアマゾンは、書籍産業から利益を搾り取っており、あらゆる小売りセクターから雇用を消失させている。

もっと見る
この続きを見るには...
残り2835/3955文字

4,000冊以上の要約が楽しめる

要約公開日 2017.10.17
Copyright © 2025 Flier Inc. All rights reserved.

一緒に読まれている要約

28歳からのリアル
28歳からのリアル
人生戦略会議
ペンタゴンの頭脳
ペンタゴンの頭脳
加藤万里子(訳)アニー・ジェイコブセン
ヨーロッパ炎上 新・100年予測
ヨーロッパ炎上 新・100年予測
夏目大(訳)ジョージ フリードマン
人生をはみ出す技術
人生をはみ出す技術
枡野恵也
新・新装版 トポスの知
新・新装版 トポスの知
河合隼雄中村雄二郎
仕事と家庭は両立できない?
仕事と家庭は両立できない?
関美和(訳)アン=マリー・スローター
マストドン
マストドン
小林啓倫コグレマサトいしたにまさきまつもとあつし堀正岳
シンキング・マシン
シンキング・マシン
ルーク・ドーメル新田享子(訳)

同じカテゴリーの要約

ユニクロ
ユニクロ
杉本貴司
ローソン
ローソン
小川孔輔
ケーキの切れない非行少年たち
ケーキの切れない非行少年たち
宮口幸治
トヨタの会議は30分
トヨタの会議は30分
山本大平
シン・サウナ
シン・サウナ
川田直樹
リッツ・カールトンが大切にする サービスを超える瞬間
リッツ・カールトンが大切にする サービスを超える瞬間
高野登
PLURALITY
PLURALITY
オードリー・タンE・グレン・ワイル山形浩生 (訳)鈴木健(解説)
キーエンス解剖
キーエンス解剖
西岡杏
両利きの経営(増補改訂版)
両利きの経営(増補改訂版)
チャールズ・A・オライリーマイケル・L・タッシュマン入山章栄(監訳・解説)冨山和彦(解説)渡部典子(訳)
2030年
2030年
ピーター・ディアマンディススティーブン・コトラー土方奈美(訳)