ペンタゴンの頭脳

世界を動かす軍事科学機関DARPA
未読
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世界を動かす軍事科学機関DARPA
未読
ペンタゴンの頭脳
出版社
出版日
2017年04月27日
評点
総合
3.7
明瞭性
3.5
革新性
4.5
応用性
3.0
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おすすめポイント

ある日、街を歩いていて、ふいにトンボが視界に飛び込んできたとしよう。大抵の場合、「都会でトンボを見かけるなんて珍しいな」と思う程度にとどまるだろう。あるいは、気にとめないという人もいるかもしれない。だが、そもそも果たしてそれは本当に「トンボ」だったのだろうか。

本書は、アメリカの国防高等研究計画局「DARPA(ダーパ)」の実態を描いた、史上初の超大作である。兵器システムの開発を目的とし、国防総省の中枢を担う最高機密にして、世界最大の影響力を持つ軍事科学機関――それが「DARPA」だ。その科学技術のレベルは、公知のものより10年も20年も先を行っていると言われている。

最近では個人がドローンを使って、簡単に空撮できるようになった。しかし、DARPAは1960年代初期の段階で、すでにドローンの開発を始めていたという。今はさらに技術開発が進んでおり、昆虫サイズの超小型飛行機プログラムが進行中とのことだ。加えて、生きた昆虫や動物の兵器利用や、生き物と機械を組み合わせた「サイボーグ」の研究も進んでいると著者は述べている。

こう書くと、まるでSFの話をしているように感じるかもしれない。ところが、これはまぎれもなく私たちが生きる世界の話なのだ。

たしかに、DARPAの科学技術が活用され、世界を豊かにしてきたのは事実である。しかし、私たちをこの先で待ち受けているのは、本当にただの明るい未来なのか。本書を読めば、自分や大切な家族の未来に、無関心なままではいられなくなるだろう。

ライター画像
金井美穂

著者

アニー・ジェイコブセン (Annie Jacobsen)
調査報道ジャーナリスト。ロサンゼルス・タイムズ・マガジンの編集に携わるほか、多くの雑誌に寄稿。秘密基地の全貌を明らかにした『エリア51』(太田出版)は世界でベストセラーとなった。その後も軍事開発の闇を追う著作を発表し、全米ベストセラーとなる。最新作はアメリカ政府主導によるESP研究の実態を明らかにしたPhenomena。ロサンゼルス在住。

本書の要点

  • 要点
    1
    1949年にソ連が初めて成功させた原爆実験をきっかけとして、アメリカの水爆開発がはじまった。その威力は広島に投下された原爆の1000倍に相当するものだった。
  • 要点
    2
    「囚人のジレンマ」では、プレーヤーの両方が相手に不利な選択をしなければ最良の取引となるが、多くの場合は他人を信用できず、相手を陥れる選択をしてしまう。国家安全保障に関しても、これと同じようなジレンマが発生している。
  • 要点
    3
    DARPAの最終的な目標は、命令さえ下せば自ら任務を遂行する、自律的な兵器システムの開発である。

要約

【必読ポイント!】 戦争に駆り立てるもの

史上最悪の水爆実験
RomoloTavani/iStock/Thinkstock

1954年3月1日、マーシャル諸島のビキニ環礁で多くの軍関係者たちが固唾を飲んで見守るなか、熱核(水素)爆弾〈ブラヴォー〉が炸裂した。

当初、その威力は6メガトンと見積もられていたが、実際には15メガトンもあった。1945年に広島に投下された原子爆弾と比較すると、実に1000倍に相当する数字である。

キノコ雲は、当時の民間航空機が飛行する高度のおよそ2倍にまで達し、粉々に砕けた数百万トンの珊瑚を吸い上げて、放射性のちりとなったそれらを辺り一面にばらまいた。この死の灰は、アメリカ軍が設定した危険水域の約24キロ外で操業中だった日本のトロール漁船、第五福竜丸の頭上にも降り注ぎ、漁師全員が被曝した。

ブラヴォーの破壊力は、爆弾を設計した科学者たちの予測さえ大きく上回るものだった。世界中に致死的な放射性降下物を撒き散らしたこの実験は、史上最悪の被爆事故として名を残すことになった。

水爆開発のきっかけ

広島と長崎に投下された原子爆弾による死者は数万人にのぼったが、水爆はたった一発で数百万人を殺せる能力がある。この恐ろしい兵器の開発が始まったきっかけは、1949年にソ連が初めて成功させた原爆実験だった。

ソ連が原爆実験を成功させた直後に招集された一般諮問委員会では、「アメリカは水爆の製造に手を出すべきではない」と全会一致で結論が出された。水爆の恐ろしさを認識していた科学者たちは、倫理上いかなる理由からも水爆の使用を正当化できない、と反対したのだ。

ところが、一般諮問委員会に選出されなかった原子力科学者のグループが、次のようにトルーマン大統領に直訴した。「倫理的な理由を説いたところで、ソ連が水爆開発をやめるとは思えない。ソ連に先を越されでもしたら、アメリカの破滅は必至である。自分たちがやるか、ソ連にやられるかの二択なのだ」。

その結果、1950年にトルーマン大統領は、水爆の突貫生産計画に許可を出した。

戦争ゲームとミニマックス定理
FabrikaCr/iStock/Thinkstock

国防総省が支援する戦後初のシンクタンクであるランド研究所では、昼休みになるとアナリストたちが戦争ゲームに興じていた。それはチェスを変形して実際の兵棋演習のように競い合うもので、特にフォン・ノイマンが研究所を訪れているときは、何時間でも続いたと言われている。

フォン・ノイマンは、国防長官からも頼りにされるほど、国防科学者として一目置かれた存在だった。日本の原爆投下地域の決定に関わった人物でもあり、広島と長崎の民間人殺傷率を最大化するための爆破位置を計算したのも彼だった。

フォン・ノイマンが23歳で書いた論文に、「室内ゲームの理論」というものがある。そこには、後に有名になる「ミニマックス定理」という証明も含まれていた。これは簡単に言うと、ふたりのプレーヤーがゼロサム・ゲーム(一方の損失が他方の利益になるゲーム)をすると、お互いに自分の損失を最小化し、利益を最大化する行動を選択するという理論だ。のちにフォン・ノイマンはこのアイデアをさらに煮詰め、数学者オスカー・モルゲンシュテルンとともに「ゲーム理論」として発表している。

ミニマックス定理を生み出したフォン・ノイマンは、ランド研究所ですっかり伝説的な存在となった。誰もが時間の合間を見つけては、フォン・ノイマンにも解けないような謎を考えようとするほどだった。

このとき生まれた難問のひとつが、かの「囚人のジレンマ」である。

囚人のジレンマと国家安全保障

「囚人のジレンマ」とは、「同一犯罪に関与した疑いでふたりの容疑者が逮捕される」という設定ではじまる。ここで、ふたりは同じ司法取引を持ちかけられる。相手に不利な証言をすれば、自分は釈放されて、相手は10年の懲役刑になる。しかし、ふたりとも相手に不利な証言をすれば、それぞれ5年の懲役刑が課せられる。また、ふたりとも取引を拒んだ場合は、宣誓釈放違反で1年の懲役刑となる。

この実験の興味深いところは、保守的な者の多くは共犯者に不利な証言をし、リベラルな考えの持ち主は、ほぼ共犯者に不利となる証言を拒んだという点である。

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要約公開日 2017.10.25
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