理化学研究所

100年目の巨大研究機関
未読
理化学研究所
理化学研究所
100年目の巨大研究機関
未読
理化学研究所
出版社
出版日
2017年03月20日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
4.5
応用性
3.0
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おすすめポイント

たとえば、自動車エンジン部品のピストンリング、即席食材の「ふえるわかめちゃん」、コピー機能を中心とした複合機――これら3つを製造する各々のメーカーは、一見何の関係もないように見える。しかし、ルーツを辿ると同じ会社に行き着く。それが今年、100周年を迎えた巨大研究機関「理化学研究所」(以下、理研)である。

理研にゆかりのある企業は、現在115社にものぼる。これだけの企業が事業を継続できるほどの「発見」を続けているという事実は、理研の社会的意義を雄弁に物語っているといえよう。しかし、そこでおこなわれている実験・研究内容や、100年にも渡る歴史については、市井の人々にはなかなか見えてこなかったのも事実だ。

そこで本書の出番である。本書では、理研の特色とも言える研究員制度、世界一の設備や環境、研究に心血を注ぐ研究者たちの様子など、理研の「中の人」にしかわからないようなことが数多く紹介されている。最新科学の動向について、ある程度広く知ることができるのも嬉しい。

なによりもすばらしいのは、本書を読むうえで前知識がまったく必要ないことだ。理研とその成果をここまでわかりやすく書ける人物は、著者をおいて他におるまい。科学研究と縁のない人にこそ、おすすめしたい一冊である。エキサイティングな科学の世界へようこそ。

ライター画像
山崎華恵

著者

山根 一眞 (やまね かずま)
ノンフィクション作家。1947年東京都生まれ。獨協大学国際環境経済学科特任教授、宇宙航空研究開発機構(JAXA)客員、理化学研究所相談役、福井県文化顧問、日本生態系協会理事、NPO子ども・宇宙・未来の会(KU-MA)理事、3・11支援・大指復興アクション代表などを務める。日本の技術者・科学者を取材した20冊を超える『メタルカラーの時代』シリーズ(小学館)、『環業革命』(講談社)、映画化された『小惑星探査機はやぶさの大冒険』(講談社α文庫)、『小惑星探査機「はやぶさ」の大挑戦』(講談社ブルーバックス)など著者多数。山根一眞オフィシャルホームページ http://www.yamane-office.co.jp/

本書の要点

  • 要点
    1
    理研の科学者たちによって生み出された「ニホニウム」は、日本人が初めて名づけた元素であり、科学史に残る大発見だった。
  • 要点
    2
    研究者が独立し、自由に研究室を運営できるシステム「主任研究員制度」が、理研の自由闊達な風土と多数の研究成果を生み出している。
  • 要点
    3
    理研にあるすぐれた研究設備を求めて、世界中から研究者たちが集まり、日夜実験や研究をおこなっている。
  • 要点
    4
    スパコンの登場により、「実験」と「理論」に続き、「計算科学」(シミュレーション)が「第3の科学」と呼ばれるようになった。

要約

【必読ポイント】 ニホニウムの誕生

1世紀以上にわたる悲願の達成

2016年12月1日は、日本の科学史にとって歴史的な1日となった。理化学研究所(以下、理研)の科学者たちによって人工的に作られた元素が、周期表に加えられたとの発表がなされたのである。元素名は「nihonium(ニホニウム)」、元素記号は「Nh」、原子番号は「113番」に決まった。日本初の快挙だった。

さかのぼること約110年前の1908年(明治41)年、日本人が新元素を発見し、「ニッポニウム」という名が提唱されたことがある。しかし、そのときは確証がなく、認定が得られなかった。今回の新元素「ニホニウム」の発見は、日本科学界の1世紀以上にわたる悲願の達成でもあった。

13年間という長い時間
sanches812/iStock/Thinkstock

「ニホニウム」合成の理研チームを率いたのは、実験物理学者の森田浩介である。研究は2003年9月から始まっていた。理研・仁科加速器研究センターにある、全長40メートルの線型加速器で原子核を加速させ、加速した原子核を標的の原子核にぶつけることで、より重くて新しい元素を作るという実験である。

森田は、「30番元素」である亜鉛と「83番元素」のビスマスを核融合させることで、「113番元素」をつくりだそうとしていた。しかし、このような人工合成元素は安定性に欠ける。合体から1秒もたたないうちに原子核の崩壊が連鎖し、異なった元素に形を変えながら、最終的には安定した元素に落ち着いてしまうからである。

森田のグループは、2004年、2005年と、続けて合成を成功させていた。しかし、それらの合成結果は不十分と判断され、命名権は付与されず、森田らは3度目の成功をめざしていた。

なかなか成果の出ないまま月日は過ぎ去っていったが、2012年8月、ついに「アルファ崩壊」と呼ばれるイベントが起きた。翌日の施設停電に備え、未解析実験データに着手したところ、7年間待ちに待った「アルファ崩壊」が4回も確認されたのだ。

また、その日は偶然ながら、国際純粋・応用物理学連合のメンバーを理研の実験施設に案内する日でもあった。そのなかには、新元素の命名権付与の権利を持つJWP(Joint Working Party)のメンバーも含まれていた。

理研のめざす科学の道

「1秒間に2兆4000万個の亜鉛のイオンビームを、ビスマスの薄膜厚さ1万分の5ミリに照射しつづけても、原子核に衝突するのは100万回に1回のみ。超重元素は芯と芯がぴったり一致しないと合体しないため、1秒間に300万回の衝突を200日間続けても、合体するのは1個だけ。113番目の元素を手にする確率は宝くじの当選より小さい」と森田は述べる。

「113番元素」は1000分の2秒後には別の物質に変わってしまうため、社会的に役に立ち、お金を生み出せるような元素ではない。しかし、この発見は永久に科学史に残る。これが、理研が100年にもわたり培ってきた科学の道である。

100年の歴史

科学技術立国のはじまり
SasinParaksa/iStock/Thinkstock

理化学研究所は1917年3月20日、財団法人理化学研究所として発足した。創設の牽引役は、工学・薬学博士の高峰譲吉。世界で広く利用されている消化剤タカジアスターゼや、副腎髄質から分泌されるアドレナリンの製造法の開発者であり、「日本が生んだ偉人の一人」と言われる人物である。

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要約公開日 2017.10.31
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