社会学者がニューヨークの地下経済に潜入してみた

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社会学者がニューヨークの地下経済に潜入してみた
出版社
東洋経済新報社

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出版日
2017年06月08日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

本書で描かれているのは、コロンビア大学の社会学教授が、ニューヨークのアンダーグラウンド(以下、アングラ)経済で過ごした10年間だ。著者は、ドラッグバイヤーや売春婦などのアングラ経済に生きる人々や、ニューヨークという街の本質に接していく中で、社会学者としても、等身大の自分自身としても、これまでのあり方を問い直さざるを得ない経験を次々と重ねていく。

なかでも興味深いのは、「ニューヨークという街のコミュニティは、動き回る人々の無数の出会いと別れが織りなすネットワークによってつくられている」という気づきだ。それは、「街は地域によって区画されていて、階級は継承されていくもの」という著者の思考を揺るがしたという。アングラ経済に生きる人々との日常を通じて、著者自身の根幹がアップデートされていく様子は生々しく、ノンフィクション好きにとって、じつに読み応えのある内容となっている。

都市を考えるための材料としても、一流の社会学者が成長していく冒険譚としても、また変貌するグローバル経済の実情を知る学術書としても、本書は十分楽しむことができる一冊である。ニューヨークを舞台にした物語ではあるものの、読み終わる頃には、すぐ隣りにいる人たちがどんな生活をしているのか、思いを馳せてみたくなるはずだ。シカゴのゲットーを舞台にした前著『ヤバイ社会学』と合わせてお読みいただければと思う。

ライター画像
新井作文店

著者

スディール・ヴェンカテッシュ(Sudhir Venkatesh)
コロンビア大学ウィリアム・B・ランスフォード寄附講座社会学教授。グローバル思考委員会のメンバーを務める。前著『ヤバい社会学』は『ニューヨーク・タイムズ』紙のベストセラーリスト入りし、『エコノミスト』紙のベスト・ブック・オブ・ザ・イヤーに選ばれている。『ニューヨーク・タイムズ』紙、『シカゴ・トリビューン』紙、『ワシントン・ポスト』紙などに寄稿多数。ニューヨーク市在住。

本書の要点

  • 要点
    1
    ニューヨークでは表と裏の世界が交錯しており、下層階級だけではなく、あらゆる階級の人間がアングラ経済に関わっている。
  • 要点
    2
    人々がいたるところに動き回るニューヨークにおいて、コミュニティは静的ではなく動的なものだ。人間関係を全部つなぎあわせたネットワークこそ、ニューヨークの本当のコミュニティだと著者は考えている。
  • 要点
    3
    グローバル社会では、境界を超えて人とつながることで、それを「稼ぎ」にすることができる。しかし、それはお金になるかならないかで計られる、容赦のない関係性でもある。

要約

アングラ経済の社会学者

ドラッグの新市場を探すバイヤー
iZhenya/iStock/Thinkstock

1997年、著者はニューヨークにやってきた。この街のアングラ経済を解明するために。

アングラ経済とは、人が法を犯して稼ぐ裏の世界だ。著者はエスノグラファーとして、アンケート調査よりも、街の人と過ごす時間にこだわっている。表に出ることがない話を聞くためには、信頼を得る必要があるからだ。実際、前著『ヤバい社会学』では、シカゴの麻薬バイヤーと10年を過ごしている。

舞台をニューヨークに移した今回も、著者はシカゴのときと同じ問題にぶつかっていた。それは、ニューヨークのアングラ経済の「入り口」を見つけることだった。そしてその入り口こそが、ハーレムでドラッグを売る大物黒人バイヤーのシャインだった。

著者は彼についていくことで、堅気の限界を超えて生きるさまざまな人々と出会ってきた。売春婦、ポン引き、デートクラブのマダム、その斡旋業者たち。だが、ニューヨーク市長の施策により、ニューヨークの裏の世界はどんどん追いやられていった。

ドラッグ売買が不況になったことで、シャインは販路開拓をめざし、ミッドタウンやウォール街などへの進出を考えはじめた。そしてドラッグの新市場を見つけるべく、現代美術の画廊に足を運んだ。

裏と表が交差する街ニューヨーク

ずいぶん早く画廊についた著者は、緊張と興奮の中、シャインを待っていた。

パーティーは終盤にさしかかっていた。木材や金属のスクラップ、解体用の鉄球などが辺り一面に散らばっているその様は、もはや芸術というより廃墟に近かった。

そこへ、遅れてシャインがやってきた。ジーンズ、フード、ハイトップのスニーカー。明らかに場違いな格好だった。シャインは宙づりにされた大きな鉄球の前に向かった。著者は横に並び、「変な作品だ」と声をかけた。するとシャインが、「マジで? そう思うか?」と答える。

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要約公開日 2017.10.19
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