1997年、著者はニューヨークにやってきた。この街のアングラ経済を解明するために。
アングラ経済とは、人が法を犯して稼ぐ裏の世界だ。著者はエスノグラファーとして、アンケート調査よりも、街の人と過ごす時間にこだわっている。表に出ることがない話を聞くためには、信頼を得る必要があるからだ。実際、前著『ヤバい社会学』では、シカゴの麻薬バイヤーと10年を過ごしている。
舞台をニューヨークに移した今回も、著者はシカゴのときと同じ問題にぶつかっていた。それは、ニューヨークのアングラ経済の「入り口」を見つけることだった。そしてその入り口こそが、ハーレムでドラッグを売る大物黒人バイヤーのシャインだった。
著者は彼についていくことで、堅気の限界を超えて生きるさまざまな人々と出会ってきた。売春婦、ポン引き、デートクラブのマダム、その斡旋業者たち。だが、ニューヨーク市長の施策により、ニューヨークの裏の世界はどんどん追いやられていった。
ドラッグ売買が不況になったことで、シャインは販路開拓をめざし、ミッドタウンやウォール街などへの進出を考えはじめた。そしてドラッグの新市場を見つけるべく、現代美術の画廊に足を運んだ。
ずいぶん早く画廊についた著者は、緊張と興奮の中、シャインを待っていた。
パーティーは終盤にさしかかっていた。木材や金属のスクラップ、解体用の鉄球などが辺り一面に散らばっているその様は、もはや芸術というより廃墟に近かった。
そこへ、遅れてシャインがやってきた。ジーンズ、フード、ハイトップのスニーカー。明らかに場違いな格好だった。シャインは宙づりにされた大きな鉄球の前に向かった。著者は横に並び、「変な作品だ」と声をかけた。するとシャインが、「マジで? そう思うか?」と答える。
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