著者が、若い女性から必ず聞かれる質問がある。それは、「どうやって仕事と家庭を両立しているのか?」というものだ。
若い世代にかける決まり文句には定番がある。著者も自分に向かって唱えてきた決まり文句だ。それは次の三つである。必死に仕事に打ち込んでいれば、すべてを手に入れることができる。協力的な相手と結婚すれば、すべてを手に入れることができる。出産やキャリア形成の順番を間違えなければ、すべてを手に入れることができる。
これらはどれも間違いではないが、完全に真実というわけではない。
「必死に仕事に打ち込んでいれば」、ある意味では確かに仕事と家庭の両方を手に入れられるかもしれない。もしそのために子供にめったに会えなくてもいいと思うのなら。それが、経営の上層にいる男性たちのしてきたことだ。
しかし、ほとんどの場合、そうした男性の家庭では、配偶者が専業主婦になるか、少なくとも家事の大半を担っている。女性が彼らのやり方を真似ても、夫が家庭に入ったり、子育ての主導権を握ったりすることはほとんどない。現在の社会構造では、上をめざす女性が仕事に24時間365日打ち込んでしまえば、子どもの面倒を見る人が誰もいなくなってしまうのだ。
一方で、子育てや介護をうまくやりくりしている共働きのカップルは少なくない。けれど、子どもの病気、問題行動、配偶者が昇進して出張が増えるなど、慎重に調整した仕事と家庭のバランスは、突然の出来事であっけなく崩れてしまう。そのとき女性が、時間の融通の利かない職場から、自主的に「退場」することを余儀なくされてしまうことも多い。
人生のパートナーを正しく選ぶことがキャリアにとって大切だという考えがある。結婚相手が平等に家事を分担してくれたら、仕事と家庭を両立できるという考えだ。
しかし、自分の人生がコントロールできるというのは幻想だし、正しい選択をしたつもりでも、独身に戻ってしまうこともある。それに、夫との家事の分担がフィフティ・フィフティでは、仕事で成功するためにはまだ足りない。現実には、仕事で成功を極めた女性には、半分どころかはるかに多くの家事負担を背負う配偶者がいる。なおかつ、たとえそのような夫を得たとしても、「子どもと一緒にいたい」という自然な欲求が沸いて、家庭に時間を割きたくなることもある。
さらに、キャリア形成に励んでから、「順番をまちがえずに」子育てにとりかかればうまくいくという考えも、現実的ではない。子供は計画どおりに授かるとは限らない。それに、たとえすばらしいタイミングで子供を授かったとしても、仕事のほうがタイミングに合わせてくれないということは当然ながら起こりうる。
女性が仕事も家庭も「すべてを手に入れる」という話をすると、「男性だってすべてを手に入れられるわけではないのに」という議論が出てくる。そこには、真実の一片も、偏見も、両方含まれている。仕事をするだけでなく、もっと家族と時間を過ごしたいと思う男性は、周囲の人たちの冷たさに直面する。男性が子育てや介護のために休暇を申請すると、降格されるかクビになる可能性が高まるという研究結果もある。また、ほかの男性と比べて女々しいと捉えられ、職場では周囲の人からひどい扱いを受ける比率が高くなるという。だがしかし、こうした問題はあるにせよ、男性がアメリカ社会ではるかに権力と影響力を握っている立場にあることは否定できない事実だ。
「家族を養うのは男性の仕事」という思い込みも、改めて見つめ直さねばならない「神話」のひとつだ。そもそも、「養う」ということが、なぜ世話をすることでなく収入を得ることと捉えられているのだろう。
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