なぜアメリカでメルセデス・ベンツが売れるのだろうか。大枚をはたいてベンツを買わなくとも、ベンツと同じ機能を持った車は山ほどある。それでも人がベンツを買うのはなぜか。
それは、人は感覚で買い、理屈で納得(正当化)するからだ。人がベンツを買うのは、ベンツの技術力が並外れてすばらしいからでもなければ、乗り心地が抜群に優れているからでもない。高級車のオーナーの仲間入りができるという、感覚的魅力に惹かれているのである。
しかし人は、感覚的に買おうとする自分を納得させるために、購買理由を理屈で正当化しようとする。ベンツの広告代理店はそのことをよくわかっており、広告では技術力や乗り心地がほかの車とは一線を画すことを強調している。
人が根本では感覚で意思決定をしているということを理解すれば、理屈では売るのが難しく見える商品も、感覚に訴えるメッセージを用いることで顧客に購買を促すことができるようになる。さらに言葉は、一語一句自体が短い物語のような感覚的な意味合いを持っているので、その感覚をうまく使いこなせるようになれば鬼に金棒だ。
英語の例になるが、アメリカの伝説のダイレクト・マーケッターであるジョン・ケイプルズは「repair(修理する)」を「fix(元通りにする)」と言い替えただけで、レスポンスが2割増えたという。優秀なセールスパーソンをめざすなら、お客があなたの商品を買いたいと思う感覚的な理由を考えて、それを最適な言葉で表現してみてほしい。
人は感覚で買い、理屈で納得する。では、人が何かを購入する際にそれを理屈で納得させるための戦術は何か。
購入を迷っているときにお客の頭にもっとも浮かんできやすい疑問といえば、「これを買って本当に後悔しないか」ということだろう。お客が感じる疑問にはすべて、お客がその疑問を感じるよりも前に、こちらから先手を打って納得のゆく答えを提供すべきだ。
もし納得感のある答えを提供できなければ、お客に「もう一度考えてみる」という口実を与えることになる。そうなれば、お客がその商品を買う可能性はほとんどなくなってしまう。著者が広告を書くときには、お客の欲求やニーズを満足させられるような「納得のいく理由」を広告のどこかに入れて、お客の感じる抵抗感を取り除いているという。そうして書かれた広告は、「あなたの広告を読むと、買わないと悪いような気になる」とお客に言わしめるほどの効果を発揮する。
お客は口にはせずとも、買いたい気持ちと買うことに対する抵抗感の狭間で迷っている。そこで「買い物を自分や配偶者などに納得させたい」というニーズを満たすような理屈を見つけて一押しできるかどうかが、セールスパーソンとしての腕の見せ所だ。
お客に理屈で納得してもらうためには、抵抗感を取り除くことが大切だ。では具体的にどのような点を意識すればいいのか。
「臭いものに蓋をする」とは、都合の悪いことが外に漏れないよう、一時しのぎの方法で隠すという意味のことわざだが、著者は臭いもののフタは積極的に開けろという。つまり、商品の欠点やマイナスに捉えられそうな点は真っ先にお客に伝えるべきだということだ。それはなぜか。
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