京大式DEEP THINKING

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出版社
サンマーク出版

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出版日
2017年11月10日
評点
総合
3.5
明瞭性
3.5
革新性
3.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

スピード至上主義ともいえる現在、「頭の良さ=スピード」ととらえていないだろうか。しかし、著者は「即応即答では深く考える力はつかない」と一刀両断している。正解が決まっているクイズでもない限り、パッとそれらしい答えを述べるのは、単なる脊髄反射の可能性もあるからだという。

著者は元AI研究者で、現在は京都大学デザイン学ユニット特定教授として「システムデザイン」「知識情報処理」「不便益」を研究している。「京大先生図鑑」というウェブサイトにも取り上げられ、そのユニークな講義が学生たちの間で人気だという。そんな著者が、本書では「深い思考(=DEEP THINKING)」をテーマに縦横無尽に論を展開している。2017年11月1日に出版業界有志とフライヤーで開催した、ビジネス書販売決起集会のビブリオバトルで見事準優勝を獲得した、注目の一冊だ。

「深く考える」を促す本書に向き合う中で、「本当にそうだろうか」と思いを巡らせる。この試行錯誤を積み重ねられるかどうかが、深く考え、真の課題と解決法を導き出す力の習得の分水嶺になるといってよい。だから読者のみなさんには、「答えがすぐ見えない」と感じて途中で放り出さずに、腰を据えて「思考の広がりと奥行き」を体感してほしい。やがて著者の考察に「実感」が伴い、「なるほど」と思い至ることだろう。考え抜く力は一生モノ。普段深く考える時間がなかなかとれない。そんな多忙極まるビジネスパーソンにこそ、この本をきっかけに、果てのない思考の海に深く潜ってみてほしい。

ライター画像
松尾美里

著者

川上 浩司(かわかみ ひろし)
京都大学デザイン学ユニット特定教授、博士(工学)。専門はシステムデザイン。
1964年島根県出身。京都大学工学部在学中に人工知能(AI)など「知識情報処理」について研究し、同修士課程修了後、岡山大学で助手を務めながら博士号を取得。
その後、京都大学へ戻った際、恩師からの「これからは不便益の時代」の一言がきっかけで「不便がもたらす益=不便益」について本格的に研究を開始する。
不便益研究の一環として作成した「素数ものさし」(目盛りに素数のみが印字されたものさし)は、その特異性から話題を呼び、京都大学内のみでの発売にもかかわらず、3万本以上の販売を記録している。
自動化が進み、とにかくより便利な方向へと進む時代の中、便利になったがゆえの弊害を工学的にアプローチして解決するため、「不便益」という視点から新たなシステムデザインの研究・作成に日々取り組んでいる。
著書に、『不便から生まれるデザイン』(化学同人)、『ごめんなさい、もしあなたがちょっとでも行き詰まりを感じているなら、不便をとり入れてみてはどうですか?~不便益という発想』(インプレス)などがある。

本書の要点

  • 要点
    1
    「深く考える」営みこそ、人間の個性であり一番の強みである。「深く考える」とは、未知のものについてそれが何なのかを考え抜き、新しい概念を自分の中に形成することや、既知のものに新たな側面を見つけようと思案することを指す。
  • 要点
    2
    深く考えた末に得られた答えや着想は、価値あるユニークさを伴う可能性が高い。
  • 要点
    3
    思考という経験を可視化するためには、鉛筆が最適なツールとなる。紙の上に残った思考の履歴と向き合っていくと、思いがけない新鮮な発見にたどり着く。

要約

【必読ポイント!】 DEEP THINKINGの極意

深く考えることは、プロセスをたどる営み

仕事や人生全般において「深く考える力」は最高の強みとなる。深く考えられるだけの思考のスタミナをつけるには、考えることの価値を知り、深く考える時間をつくるしかない。

スピードと便利さ、効率化が重視される現在、即応即答できる人は高い評価を得がちだ。しかし、いくら素早くても、その答えが的を射ていないこともある。本来、「深く考える」とは「プロセスをたどる営み」であり、必ずしも「最適解」を出すことではない。ビジネスでの「最適解」は、過去のデータや現状分析によって導き出せるが、それは「深く考える」という営みとは異なる。

もちろん、思考の海底まで潜水して考えた末に出した答えが見当違いの場合もある。しかし、「深く考える」プロセス自体から生まれる「何か」がある。この「深く考える」営みこそ、人間の個性であり一番の強みである。これが元AI研究者としての著者の見解だ。

「考える」と「深く考える」の根本的な違い
SIphotography/iStock/Thinkstock

そもそも「考える」と「深く考える」の違いは何なのか。私たち人間は、「考える」という行為をしているとき、実際には「recognition(認識)」にとどまっていることが多い。日々考えているといっても、「目の前のものは、すでに自分の中にある概念と同じ」というふうに、認識・確認する作業であることがほとんどである。

例えば「電車の混雑=遅延」という概念に、目の前の電車の混雑という状況を当てはめて、頭の中に反響させ「再び(re)+認知(cognition)」する。要は、目の前の出来事と自分の知識の答え合わせのようなもので、これは「深く考えた」とはいえない。

一方、「深く考える」とは、未知のものについてそれが何なのかを考え抜き、新しい概念を自分の中に形成していくことや、既知のものに新たな側面を見つけようと思案することを指す。新たな発見においては、回り道も勘違いもつきもので、その分時間がかかる。自分なりの答えを導き出そうと粘り強く試行錯誤する。このプロセスを経る中で、新しい発見が生まれる。そして、この「認知(cognition)」こそが深い思考だと著者はいう。こうして「発見」の回路が脳内にできれば、深く考える機会が増え、思考力強化につながる。ひいては、発想の転換も促される。

ユニークな答えや着想に近づくには?

人間には「深く考える」という機能が初期設定されている。にもかかわらず、思考を介在させずにすぐ行動するのは、自分を放棄して誰かの意のままに動くようなものといってよい。

ほとんどの製造現場では、タスクを細かく分割し、作業員が決まった一つのタスクを受け持つという「ライン生産方式」がとられている。一方、すべての工程に一人の人間が関わる進め方を「セル生産方式」という。皮肉なことに、便利さと効率ばかりを追求していると、ビジネスパーソンもライン生産方式で仕事をこなすようになりかねない。そこで、あえて不便なセル生産方式を意識することで、考えるという営みを取り戻すことが可能となる。

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要約公開日 2017.12.16
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