ある休暇のこと、著者は、夫と湖で泳いでいた。よい気分になった著者は、夫と気持ちを通じ合わせたかったが、夫にそっけなくされ、傷つけられたように感じた。激しい怒りと不安でいっぱいになり、著者は泳いで桟橋まで戻った。水からあがって夫と話すとき、著者は不名誉な思いに耐え、相手を信頼する勇気を奮い起こした。結果、このいさかいは大喧嘩に発展せずに済んだ。
このできごとは、ある特別なこととして著者の心に残っていたが、「逆境から自分を立て直すプロセス」として、大きな気づきを得たのは少し後のことになる。
講演で招かれたピクサー・アニメーション・スタジオで、著者は、「物語の第二幕にいちばんてこずらされる」という言葉に出会った。ストーリーテリングの伝統的な三幕構成は、主人公が(1)冒険に出かける(2)問題を解決するための方法を探す(3)学んだことを実行し、帰還する、である。第二幕には、「どん底」の状況が含まれ、「闇のなか」にたとえられる。この第二幕は面倒で厄介だが、しかし、魔法が起きるのはまさにここなのだという。
著者夫婦のいさかいの第二幕にあたるのは、「激しい怒りと不安でいっぱいになり、泳いで桟橋まで戻った」部分だ。水の中で著者は、激しい怒りにかられて、自分は被害者で夫は報いを受けるという筋書きを考えていたが、やがて、夫が報いを受けるべき結末を望んでいるわけではないことに気づいた。そして、結末を変えたいのなら、別の筋書きを紡げばいいと考えた。夫には何の悪意もなかったという筋書きを。
自分のつくった筋書きにふりまわされなかったことが、よい結果を生んだのだ。これこそ、「逆境から自分を立て直す」プロセスだったのだ、と著者は思い至った。
挫折や失敗をして傷ついても、本心からではない筋書きにふりまわされず、最良のストーリーを改めて描けば、人生を変えられる。より上質で幸せな人生を実現することができるのだ。
ストーリーを描きなおし、自分を立て直すプロセスには、3つのステップがある。
まず、「感情を自覚する」こと。自分の気持ちをしっかりと見つめ、現在のストーリーを理解する。
次に「整理整頓する」こと。自分を支配している、自分がつくりあげたストーリーを客観的に点検し、修正すべきキーポイントを見つける。
そして最後は「劇的に変わる」。ストーリーを、偽りを排した力強い結末に書き換えると、自分も世界も変わる。
自分を「立て直す」ためには、最初のステップとして「感情を自覚する」ことが必要だ。
しかし、気持ちの上で「自分をさらけ出して、失敗した」状態であることを認めるのが苦手な人はとても多い。「なぜかわからないけれど、どこかに隠れてしまいたい」「胸になにかつかえているような感じ」といったことを意識できればいいのだが、自分の感情に無頓着な人は、気持ちを特定しない。そして、「自分は負け犬だ」など、別のことに置き換えてしまうのだ。
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