著者は8歳の頃に両親を失い、いくつもの逆境を経験した。中でも、お金の不自由さは真っ先に払拭したいコンプレックスだったという。
当時小学生だった彼がお金を稼ぐために選んだのは、アコースティックギターによる路上での弾き語りだ。この経験こそが、後に事業を立ち上げる際の原点となる。
しかし、弾き語りを始めてすぐに壁にぶつかった。まず、行き交う人が立ち止まってくれない。歌がもっと上手になればいいのか、あるいは演奏技術を高めるべきか。そこで著者は、冷静にお客さんの立場になって考えた。「自分なら立ち止まるだろうか」。みすぼらしい感じの小学生の路上演奏なら、答えがNOなのは明らかだった。
著者は、演奏する曲をオリジナル曲からカバー曲へ変更した。提供するコンテンツを「未知から既知」にすることで、人々により大きな影響を与えられる、という仮説のもとである。結果は上々、立ち止まる人の数は徐々に増えていった。
しかし、すぐに収入という、第二の壁が目の前に立ちはだかった。音楽で食べることが最大の目的にもかかわらず、1ヶ月500円の売上ではあまりにも少ない。そこで、著者はセレブのイメージがある港区白金へと、場所を変えた。しかし、港区白金では、当時流行っていたカバー曲を歌っても道行く人は足を止めてくれない。今度は語り継がれていた名曲を演奏すると、街行く女性たちの興味をひくことができた。そうやって工夫を重ねるうちに、半年後のギターケースには、多いときには月10万円ほどのお金が入るようになっていた。
半年間の試行錯誤の末、お金を稼ぐために最も大切なことは「濃い常連客」を獲得することだと著者は学んだ。そのためには次の3つのステップがあるという。
1つ目は、お客さんを、会話のキャッチボールが成立する「コミュニケーション可能範囲」に引き込むことである。通常、人は警戒心を抱いて素通りして行く。
著者の場合は、演奏項目を手書きで書いたボードを掲げることだった。小学生が歌うとは思えない歌謡曲を提示することで、道行く人が立ち止まらずにはいられない仕掛けをつくり、これが奏功した。
続いて2つ目のステップは、お客さんからのリクエストに時間差で応えることだ。リクエストされた歌を無理して歌うのではなく、来週の同じ時間に来てほしいと、次回の約束を取りつけた。その背景には、歌の上手さとは別の土俵で戦うため、聞いてくれる人とより深く心を通じ合わせるため、という狙いがあった。1週間後に練習を重ねた曲を披露すると、お客さんには、「自分のために1週間も練習してくれた」というストーリーを付加価値として提供できる。
そして3つ目のステップでは、仲良くなれたお客さんにオリジナル曲を披露する。初めは見向きもされなかったオリジナル曲も、「絆」という価値が加わることで、聴く人にとって特別な曲へと昇華するのである。音楽を通じてしっかりお金を稼げるようになった経験は、のちに著者がSHOWROOMを立ち上げる際の重要な原体験となった。
コミュニティは絆の集合体である。コミュニティの形成は今後あらゆるビジネスにおいて無視できないほど、重要な要素になる。なぜなら、コミュニティには現代人が望む価値が詰まっているからだ。
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