21世紀に入ってから、社会環境はすさまじいスピードで変化を続けている。特にコンピューターなどの技術革新とグローバル化、気候変動、ナショナリズムの高揚による政治と社会の変革は、人々の生活に大きな影響を与えている。
技術革新の中でも、AIの進歩は目覚ましい。現在人の手で行われている多くの仕事が、今後AIに取って代わられると予測されている。人類が今後、コンピューターにはない、独自の優位性を保ち続けることは可能なのだろうか。
グローバル化には負の側面もある。外国資本の企業が国内に多く参入し、私たちは手軽かつ安価に、高品質のものを手に入れられるようになった。その反面、海外への生産拠点移動による国内産業の空洞化や、それにともなう雇用喪失、技術流出も問題になっている。国際競争に敗れ、アジア企業の傘下に入る日本企業も少なくない。
日本には様々な独自優位性がある。日本古来の考え方や高い技術力は世界中で高い評価を得ている。しかし、自らの価値に対する認識不足や縦割り組織体制による弊害、技術視点の偏重、PR下手などが、国際社会における日本の政治的、経済的、文化的苦境を招いているといってよい。
こうした中で、日本の国際的競争力を高める切り札として期待されるのが、伝統的な価値観と最先端技術を融合した、「最先端テクノロジー・アート」である。その中心的な役割を担っているのは日本の新世代の企業だ。彼らの強さの源泉を、その作品や創作プロセス、企業運営手法などから明らかにしていきたい。
チームラボは2000年末、猪子寿之氏が同級生や幼馴染と設立した企業である。自らを「ウルトラテクノロジスト集団」と名乗り、最新のデジタル技術と高いクリエイティビティの融合を特長とする。主な作品は、NHK大河ドラマ『花燃ゆ』のオープニング・タイトルバックや、スマートフォンを使用して来場者がリアルタイムでデコレーションできる大型のクリスマスツリー、「チームラボクリスタルツリー』などだ。デジタルという方法論で、日本古来の空間認識の構造を明らかにするといった試みも行っている。
チームラボには部長などの役職やルールがない。運営はメンバーそれぞれの自主性に任されている。この経営方針は一見型破りに見えるかもしれない。しかし、複雑化する情報社会において、クリエイティビティを効果的かつ効率的に発揮するという点で理にかなっている。ルールがあると、人はそれに従うことで思考を停止させてしまう。常に自分で考え、判断することを強いられる状況のほうが、クリエイティビティが発揮されるのだ。
また、彼らのオフィスでは在宅勤務を一切認めていない。それは、現在のテクノロジーではやりとりできる情報が、フェイス・トゥ・フェイスに比べて圧倒的に少ないためだという。顔を合わせて話すことで、表情や声のトーンなど、知覚されない領域も含めて大量の情報交換が可能になる。その結果としてクリエイティブなアイデアが生み出せるのだ。
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