世界旅行ツーリズム協会(WTTC)の試算によると、観光産業は全世界のGDPの10%を占めており、雇用全体の11分の1を生み出している。また、国連の世界観光機関(UNWTO)は観光輸出の総計を1.5兆ドルと発表している。これは世界総輸出の7%に当たる数字だ。
かつては、「観光に力を入れるのは途上国」というイメージがあったかもしれない。しかしいまの観光業は約170兆円規模という、先進各国にとっても無視できない巨大産業と化している。
UNWTOによると、全世界の国際観光客数は1950年の2500万人から増加を続けており、2015年には11.9億人に達した。今後も順調に伸びる見込みで、2030年には延べ18億人になると予測される。2030年の世界総人口はおよそ85億人と予測されていることから、地球上の5人に1人に相当する国際観光客が海外旅行を楽しむ「大観光時代」に入る計算になる。
国際観光客の出身国を見てみると、海外に旅行する人(アウトバウンド)は欧州からが一番多く、5.9億人となっている。次がアジアの2.9億人であり、これにアメリカ大陸諸国が2.0億人と続いている。
このなかでも際立っているのがアジアの伸びだ。1980年から2015年までの世界全体の増加率が4.3倍だった一方で、アジアでの増加率は12.2倍であった。
2016年、日本を訪れた外国人観光客は2403万9053人であった。これは前年比と比べると21.8%の増加だ。しかし、日本の観光が持つ潜在能力から考えると、この実績でも十分とはいえない。
観光産業の基礎の4条件は、自然、気候、文化、食であり、日本はそのすべてを備えている。しかも、日本には「多様性」があふれている。観光資源が多様であればあるほど、観光客数は増えるものだ。
このまま観光資源を磨いて整備していけば、2030年に6000万人の訪日観光客を迎えることも夢ではないだろう。
いまのところ、訪日外国人観光客の85%がアジアからの観光客だ。なぜなら、これまでの誘致策は、近隣諸国を対象としたものが主だったからである。特に、中国人ツアー客や韓国からの観光客をターゲットとしたものが多く、中国が26・5%、韓国が21・2%と、2カ国で全体の47・7%を占めている。
このような、近隣諸国を対象とした誘致策自体は間違いではない。しかし、2030年に訪日外国人観光客を6000万人にするという目標を達成するためには、長期滞在して日本にたくさんのお金を落としてくれる「上客」を、より多く確保しなくてはならないのも事実だ。
幸運なことに、日本には地理的なアドバンテージがある。世界の観光客のおよそ半分は欧州に住む人々であり、彼らは観光にお金を使う傾向にある。しかも、遠い国に旅行した時のほうが、隣国へ旅行した時よりも、お金を落としてくれるのだ。
2015年のデータを見ると、欧州からは142万人しか日本に訪れていない。これは訪日観光客全体のわずか5.9%だ。欧州の潜在市場は1億1880万人と見積もられていることからも、日本にはまだまだ大きな伸び代が残されているといえる。
とはいえ、欧州といってもさまざまな国があり、観光への嗜好も多種多様なため、計画性と戦略性に富んだPR戦略が必要である。
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