仕事人生のリセットボタン

転機のレッスン
未読
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仕事人生のリセットボタン
出版社
出版日
2017年07月05日
評点
総合
3.8
明瞭性
3.5
革新性
4.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

本書は、東京大学で人材開発を研究している中原氏がナビゲーターとなり、一流のアスリートとして活躍した為末氏のキャリアを振り返っていく(以下両氏敬称略)。

現在は、同じ会社で同じように働き続ければ、それで老後まで安泰という時代ではなくなりつつある。今後のキャリアに不安を抱えながら働いている人も少なくない。適切なタイミングで、仕事人生の「リセットボタン」を押し、「再びはじめなおす」ことが必要とされているのだ。

そのためのひとつの手本となるのが、アスリートのキャリアではないか、というのが中原の仮説である。アスリートは、年齢やパフォーマンスの関係で、競技人生に期限がある。引退というリセットボタンを必ず押さなければならず、その後の人生を生きていかねばならない。

為末は、400mハードルの日本記録保持者であり、3度オリンピックに出場し、2大会の世界陸上選手権で銅メダルを獲得した。引退後の現在は、スポーツに関するビジネスを手がけ、コメンテーターとしても活躍している。輝かしい経歴を持つ彼だが、競技人生のなかで、ケガやスランプ、引退に悩み、いくつもの方向転換を余儀なくされたことはあまり知られていない。本書は、対談形式によって、転機に直面したときの心の内や、そこから得た学びなどを掘り下げていく。

悩みながら常に自分をつくりあげてきた為末の姿勢から、人生の選択に悩んでいるビジネスパーソンは多くのことが学べるに違いない。

著者

為末 大(ためすえ だい)
1978年広島県生まれ。スプリント種目の世界大会で日本人として初のメダル獲得者。3度のオリンピックに出場。男子400メートルハードルの日本記録保持者(2017年5月現在)。現在は、スポーツに関する事業を請け負う株式会社侍を経営するほか、一般社団法人アスリートソサエティの代表理事を務める。主な著作に『走る哲学』(扶桑社新書)、『諦める力』(プレジデント社)など。

中原 淳(なかはら じゅん)
1975年北海道生まれ。東京大学大学総合教育研究センター准教授。「大人の学びを科学する」をテーマに、企業・組織における人材開発・リーダーシップ開発について研究。著書に『経営学習論』(東京大学出版会)、『フィードバック入門』(PHPビジネス新書)などがある。

本書の要点

  • 要点
    1
    現代の仕事人生においては、「右肩上がりの単線エスカレータ」というモデルが崩れつつある。そのため、転機を見極め、適切なタイミングで「リセットボタン」を押すべきだ。
  • 要点
    2
    自分と周囲の環境を冷静に見つめ、「勝てる分野を選ぶこと」が大切である。
  • 要点
    3
    リセットボタンを押さなくてはならないと頭でわかっていても、気持ちが追いつかないこともある。そういうときは、自分の納得がいくまでやりきるのも一つのかたちである。

要約

仕事人生のリセットボタンとは?

「右肩上がりの単線エスカレータ」の終わり
moodboard/moodboard/Thinkstock

ひと昔前の日本では、個人の仕事人生は、「右肩上がりの単線エスカレータ」だった。

高度経済成長の時期は、国内に人口が多く消費が活発で、物をつくればつくるだけ売れる時代だった。市場が右肩上がりで膨らんだため、給与も年齢が上がるにしたがって上げていくことができた。かつての日本企業における生産性と給与の関係は、徐々になだらかになる生産性のカーブと右肩上がりの賃金のカーブが交差する、「ホステージ理論」といわれる。従業員は入社時、体力があり生産性は高いが、賃金が低い。しかし、加齢によって生産性が低くなっても、賃金は上がり続け、今度は過払いの状況になる。

これは、働く人にとっては「やさしいモデル」である。なぜなら、年齢が上がるにつれ、家庭や子どものためにお金が必要になるからである。一方で、定年までひとつの組織にいないと、賃金の取りっぱぐれになるので、ひとつの組織にホステージ(囚われ状態)になってしまうということもある。

しかし、現在の仕事人生は、単線エスカレータでも、右肩上がりでもなくなりつつある。実際、子育て世代への給料は下がっていっている。若い世代には、昔と同じような賃金が支払われない可能性が高い。さらに、健康寿命がのびているため、組織で過ごす時間よりも、働いている時間のほうが長くなる。

私たちがこれからの人生を完走するためには、一つの組織に仕事人生を「丸抱え」してもらうわけにはいかないのだ。

リセットボタンを押す

そこで重要になるのがリセットボタンである。私たちは、「キャリアの踊り場」や「方向転換のポイント」で、リセットボタンを押すことで、変わらなければならないときに変わることができる。

リセットボタンとは、かつてファミリーコンピュータ(任天堂)に付属されていた。ゲームを止めるための電源スイッチとは異なり、RESET(再びはじめなおす)ためのボタンである。仕事人生でリセットボタンを押すとは、単に「現在の会社を辞めること」ではない。それは、「現在の会社で働くことの意味や意義をいったん立ち止まって考え直すこと」を意味する。

リセットボタンを押すには、自分の状態をモニタリングして、過去を見える化し、意味づけて、未来のアクションをつくることが必要になる。これを「リフレクション」という。

中原は、リセットボタンを押すことを考えるための事例として、為末の競技人生をともに「リフレクション」していく。

競技人生の最初の踊り場

成績が伸び悩んだ高校時代

為末は、小学生の頃から抜群に足が速く、何回か出場した大会ではほとんど一番だった。中学生になり、陸上を本格的に始め、中学2年生の時に100mで日本一になった。中学3年生の時には100m、200m、400m、走り幅跳び、三種目A・Bの合計6種目で日本一になるという快挙を成し遂げた。しかし、高校に入学し、陸上人生の最初の「踊り場」が訪れる。中学生時代で身体の成長が止まり、それにともなって100mの成績が頭打ちになってしまったのだ。また、肉離れのケガにも見舞われ、練習ができないという事態に陥った。

高校3年生の時に県大会に出場し、100mでかろうじて1位になったが、頭抜けて1位だった中学校時代に比べ、2位と差をつけられなくなっていた。そして200mでは1年下の後輩に抜かれ完敗してしまった。

勝てる分野・400mハードルへ
IPGGutenbergUKLtd/iStock/Thinkstock

そこで、陸上部の先生に促されて種目を100mから400mに変更することにした。結果はうまくいった。全国大会に出場し、好成績をおさめ、世界大会に出場した。

最終的に世界ジュニアの400mで4位に入賞するが、1位になったアメリカの選手には相当な差をつけられた。しかも、その選手の本業はアメリカフットボールであることを知り、為末は、現実に打ちひしがれてしまう。

失意のなか、世界ジュニアの競技場で400mハードルのレースをたまたま見たことが、転機になった。走っている選手はあまり上手に見えなかったが、その選手が世界1位になった。

為末は、「もしかしたらこの競技なら、足が速いだけではなく、もっと違う要素で勝てるかもしれない」と感じたという。400mハードルは、ハードル1台1台が走者のスピードを殺すため、素質よりもハードルへの対処の仕方が勝敗に影響を及ぼす。また競技人口も少ない。技術を習得すれば、日本人でも勝てる可能性があるのだ。

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要約公開日 2018.01.06
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