縮小ニッポンの衝撃

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縮小ニッポンの衝撃
ジャンル
出版社
出版日
2017年07月19日
評点
総合
3.8
明瞭性
3.5
革新性
4.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

2016年9月に放映され大きな反響を呼んだ、NHKスペシャル『縮小ニッポンの衝撃』。そのダイジェストといえる本書が明らかにするのは、世界で誰も経験したことのない、すさまじい人口減少と高齢化を迎える日本の姿である。NHK取材班がめざすのは、「全国の視聴者が人口減少社会の現実を肌身で実感できる現場を選ぶこと」。縮小ニッポンの現実に直面している、あるいは直面しようとしている地方自治体のリアルに限りなく迫っていく。

事例として挙げられる市や区が、決して特別な状況ではなく、読者やその親類、友人の住んでいる町と何ら変わりのない条件にあることに気がつくとき、身に迫る危機を切実に感じることになるだろう。人口減少に伴い、上下水道やゴミ収集といった、生活に欠かせないサービスがなくなる可能性について、どれほどの人が認識しているだろうか。

本書に登場する行政の職員や住民、それぞれの人々の苦悩や葛藤に耳を傾けながらページをめくっていくと、これから自分たちも経験する「痛み」と、それに対処することの重要性に気づけるだろう。

読者の町の20年後の人口予測はどのようなものだろうか。「人口減少」や「高齢化」を、国や行政任せにするのではなく、自分たちが向き合うべき問題として捉え直す機会になる一冊だ。多くの方にぜひお読みいただきたい。

ライター画像
山崎華恵

著者

NHKスペシャル取材班
植松 由登(うえまつ よしと)
NHK札幌放送局ディレクター。1980 年京都府生まれ。プロローグ、第2章、第3章を執筆。

清水 瑶平(しみず ようへい)
NHK報道局スポーツニュース部記者。1983年大阪府生まれ。第1章を執筆。

鈴木 冬悠人(すずき ふゆと)
NHKグローバルメディアサービス報道番組部ディレクター。1982年東京都生まれ。第1章を執筆。

田淵 奈央(たぶち なお)
NHK松江放送局ディレクター。1990年島根県生まれ。第4章を執筆。

花井 利彦(はない としひこ)
NHK報道局社会番組部ディレクター。1976年岐阜県生まれ。第5章を執筆。

森田 智子(もりた ともこ)
NHK報道局社会番組部ディレクター。1985年群馬県生まれ。エピローグを執筆。

大鐘 良一(おおがね りょういち)
NHK報道局チーフプロデューサー。1967年東京都生まれ。第1章、エピローグを執筆。

本書の要点

  • 要点
    1
    東京豊島区は「消滅可能性都市」として挙げられている。今後、地方から移住した若者の低賃金や低い出生率などの影響が及ぶためだ。地方の衰退で東京が共倒れになる可能性が予測されている。
  • 要点
    2
    高齢化率が5割を超える北海道夕張市は、人口減少の中、行政サービスの切り詰めを迫られており、政策空家など「何を切り捨てるか」という厳しい選択を迫られている。
  • 要点
    3
    島根県からはじまった、住民に一定の自治を移譲する「住民組織」という仕組みが、高齢化した町の住民の負担にもなっている。

要約

【必読ポイント!】 東京豊島区に忍び寄る消滅の危機

2025年、東京も人口減少に
ScottPocockvsTheWorld/iStock/Thinkstock

東京豊島区の高野之夫区長は、2014年、民間の研究機関「日本創成会議」の発表に驚いた。「消滅可能性都市」のリストに豊島区の名前が挙げられていたからである。消滅可能性都市とは、少子化と人口減少が止まらず、将来存続が危ぶまれる自治体を指す。

2016年2月に発表された国勢調査によると、全国の8割以上の自治体がすでに人口減少に陥っている。しかし、人口流入の絶えない東京で、なぜ人口減少が起こるのだろうか。しかも、日本屈指の乗降客数を誇る池袋駅を有し、現在29万人の住人を抱える豊島区がなぜなのかと、区民は衝撃を隠せなかった。

豊島区は緊急対策チームを立ち上げ、人口データの分析を進めた。するとある課題が浮き彫りになった。若者を中心に毎年2万人が流入する豊島区では、転入と転出による人口増が毎年2000人〜6000人に及ぶ。しかし、「区内に住み続けている人」に絞ると、25年以上にわたり、死亡者数が出生者数を上回る「自然減」の状態が続いていた。自然減を招いた要因は出生率の低さである。豊島区の合計特殊出生率は全国平均1.45を大きく下回る1.00と、23区でも最下位の数字である。

そこで豊島区は、区の転入者で最も割合の大きい「20代の単身者」の動向に注目する。彼らが結婚し、区内で子供をもうけられるようにすることが、人口を「自然増」に転じるために有効な方策だと結論づけた。しかし、現実はそううまくはいかない。

平均年収241万円

転入してきた20代の単身者の平均年収は241万円だ。区内に住み続けてきた同年代と比べて、40万円以上も低い。この年収で、結婚して子供を育てることは難しいという声もある。地方から流入してくる若者が、希望の仕事に就けず厳しい環境で生活しているおそれがある。

彼らが低い税負担能力のままで、次の担い手となる子をもうけることなく高齢になり、働けなくなれば、住民税は大幅な減収となる。それは、区政が困窮を極めることを意味する。

地方からの若者に支えられる警備業界
Marjan_Apostolovic/iStock/Thinkstock

では、将来東京にとって重荷となりかねない、地方からの単身転入者たちの暮らしは、どのようなものなのか。2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向け、建設ラッシュのつづく東京では、日夜、大型ダンプが建設現場に出入りする。工事現場の安全管理に不可欠な警備員の有効求人倍率は14倍を超える。警備業界は、様々な事情を抱えた若者が地方からやってくることもあり、従業員の出入りが激しい。

新宿区、ある警備会社の社長はこう語る。「日払い、寮付き、食事付きという3つの条件さえあれば、必ず人は来る」。地方から出てきたものの、仕事がなく、貯金も尽きて助けを求めてきた若者たちが、寝泊まりする場所と日給7500円、夜勤なら8500円という日払いの給料を求めてこの警備会社にやってくる。

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要約公開日 2018.01.05
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