消費大陸アジア

巨大市場を読みとく
未読
消費大陸アジア
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消費大陸アジア
出版社
出版日
2017年09月10日
評点
総合
4.2
明瞭性
4.0
革新性
4.5
応用性
4.0
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おすすめポイント

日本と他のアジア諸国との距離がかつてないほど近づいている。国内市場の縮小にともない、若年層の多いアジアの途上国に活路を見出すメーカー、小売、サービス業は数知れず、今や企業の「アジア進出」は珍しいことではなくなった。また国内を見渡しても、アジア各国から訪日客が押し寄せ、国中の観光名所はアジアの人々であふれている。アジアは私たちの生活に息づいているのだ。

アジアには20代以下の若年層が人口の半数近くの「若い国」も少なくない。また経済成長にともない「中間層」が増え、最低賃金も毎年上がっている。ゆえに「売れば儲かる」という、夢の巨大市場を期待して、アジアの国々に参入する企業も少なくないだろう。

しかし、参入後の現実はどうだろうか。本書では我々に馴染みのある商品・企業の進出事例をもとに、アジア市場進出の成否を分けるポイントを、著者独自の調査・視点で読みといていく。ポカリスエット、吉野家、フランスの大型ディスカウント店のカルフールなど、事例の多彩さも魅力の1つだ。また、日本における「ドラッグストアでの中国人の爆買い」の裏にある、中国の切実な医療事情も興味深く、行動の裏には動機があることを実感させられる。

これからの時代、たとえ日本に住もうとも、アジアの人々とかかわらずに生きていくことは不可能に近い。著者は市場の「意味」と「価値」を掘り下げながら、人々の「価値観」にも迫っており、読み進めるうちに異文化への理解も深まっていることだろう。アジア市場への進出を検討している方はもちろん、そうでない方にもぜひ読んでいただきたい。

ライター画像
矢羽野晶子

著者

川端 基夫(かわばた もとお)
1956年生まれ。関西学院大学商学部教授。専門は、国際流通論、アジア市場論。大阪市立大学大学院修了。博士(経済学)。アジア・太平洋賞特別賞、日本商業学会賞優秀賞、日本フードサービス学会賞など受賞多数。著書に『アジア市場を拓く』、『アジア市場のコンテキスト』(東南アジア編、東アジア編)、『外食国際化のダイナミズム』、『アジア市場幻想論』(いずれも新評論)などがある。

本書の要点

  • 要点
    1
    同じ商品・店舗でも、市場によってまったく異なる「意味づけ」と「価値づけ」がなされているケースは多い。商品への「意味づけ」と「価値づけ」こそが、その市場における人の消費(購買)行動を考える上で、最も重要な要素である。
  • 要点
    2
    「意味づけ」と「価値づけ」には、現地消費者の感覚によるもの(著者が「地域暗黙知」と呼ぶもの)と、社会の仕組みに基づいたものの2つがある。
  • 要点
    3
    市場の可能性を考える際に、「安易な所得増加への着目」と、「文化要因の濫用」は避けるべきだ。

要約

「意味」と「価値」のギャップ

アジアの人々と消費を共有する時代
Johnnieshin/iStock/Thinkstock

昨今、日本企業によるアジア市場進出が続いている。しかし、華々しく進出したにもかかわらず、思うような成果を挙げられていないという話もよく聞く。一方日本では、アジアの人を中心とした「訪日観光」が盛り上がり、多数のアジア人観光客が日本を訪れている。「爆買い」と称される日本での「大量買い」を目的にして来る人も少なくない。今や、日本人とアジアの人々が国境を越えて消費を共有する時代がやってきたのだ。

では、企業の海外市場での成否は何が決めるのだろうか。そして、アジアの人々は日本で何を「爆買い」しているのか。著者は、たとえ同じ商品や店舗であっても、それぞれの市場によって全然違う「意味」と「価値」がつけられているという。そして、その市場による「意味づけ」と「価値づけ」こそが、人の消費行動の原動となるカギだとしている。

たとえば、100ヶ国以上に店舗を持つマクドナルドは、その運営やメニューはかなり統一されているものの、国によって店の持たれるイメージが異なる。アメリカでは「安くて安心感があり、ひとりでも子連れでも気兼ねなく入れる店」である。これに対し、インドでは「週末に家族で出かける少し高級な店」、中国では「子供の誕生日パーティーを開く店(開いてみたい憧れの店)」ととらえられている。つまりマクドナルドは、市場によって異なる意味づけをされ、異なる価値を提供しているのだ。

インドネシアでポカリスエットはなぜ売れたか

ポカリスエットは東南アジア・中東の20ヶ所の国と地域で販売されている「グローバル商品」である。大塚製薬がポカリスエットを初めてインドネシア市場に持ち込んだのは、1989年、インドネシアであった。1997年には現地に工場を建設して本格的に参入を果たしたが、売れ行きはさっぱりだった。熱帯気候のインドネシアではわざわざスポーツで汗を流すこともないし、湯船に浸かる習慣もない。また、国民の大半がイスラム教徒のため二日酔いになる人もいない。つまり、日本では効果をあげてきた「体の渇きを癒すイオン飲料」というコンセプトが通用しなかったのだ。

そこで大塚製薬は「発汗」「渇き」といったシーンの根本的な見直しを図り、「デング熱」に注目した。デング熱は40度以上の熱と激しい下痢が続き、脱水症状を起こす、熱帯特有の感染症だ。ポカリスエットを「デング熱患者向け水分補給剤」として医療機関や医師に売り込みを始めた結果、インドネシア人の間で広く認知されるようになった。そして、次第に「脱水症状全般に効果のある飲料」として意味づけをされていった。さらには、「イスラム教のラマダン(断食)時の脱水症状に効く」という、新たな価値シーンが出現し、ポカリスエットは爆発的に売れるようになった。

大塚製薬はこの発見により、一気に巨大市場(日本の2倍の2億4000万人市場)を手に入れた。ここで重要なのは、デザインや機能(中身)の変更をせずとも、商品の持つ意味と価値を変えただけで商品が売れるようになったことである。つまり、見た目では確認できない「現地適応化(ローカル化)」がされたということだ。

吉野家の海外戦略
kuri2341/iStock/Thinkstock

2017年6月時点、中国を中心としたアジアで約650の店舗を持つ牛丼チェーンの吉野家。アメリカ進出は1975年にさかのぼる。当時は「ビーフボウルのアメリカ進出」と話題となったが、結果は惨敗であった。米を主食せず、また赤身ばかりを食べてきたアメリカ人に、牛丼の価値が伝わらなかったというのが大きな理由だ。

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要約公開日 2018.01.09
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