「編集」という言葉を聞いたり読んだりした時、一般的にイメージされる「編集」とは、おそらく雑誌や書籍などの編集だろう。著者が本書で扱うのは、もっと広義の「編集」、すなわち、「メディアを活用して状況を変化させるチカラ」である。「メディア(媒体)」にあたる部分は、雑誌や書籍である場合もあるが、もっと多様なものとして捉えることができる。たとえば、文章から離れて、「町」をメディアとして捉える。あるいは「商品」や「店」をメディアとして捉える。これらに編集という魔法をかけることによって、目の前にある様々な問題が解決する。
編集の魔法をかけるために不可欠なのが、「ローカルメディア」である。
「ローカルメディア」と聞くと、地方や田舎で作られている雑誌や新聞やウェブ、というようなイメージを抱くかもしれない。しかし「東京ローカル」という言葉があるように、ローカルを「局所」という意味に捉えることもできる。もしそう捉えるならば、究極のローカルメディアは自分自身だといえる。誰と付き合い、何を話し、どんな服を着て、どんな行動を取るか。それらすべてが自分自身からの発信なのであり、そうするとつまり、自分自身がメディアだと考えられる。
メディア=マスメディアと考えがちだが、メディア=ローカルメディアと考えることで、メディアというものをコントロール可能なものに引き寄せることができる。この認識を持つことが、編集の魔法を身につけるために必要なのだ。
編集というのは、前述のとおり「メディアを活用して状況を変化させるチカラ」である。だから、たとえば状況を変えるためにミニコミを作るとして、それを作ること自体が目的になってしまってはいけない。作ったあとに世界がどのように変化するかが大切なのだ。
編集自体を目的としてしまわないようにするために、必要なのが「ビジョン」と「謙虚さ」だ。ビジョンとは数値目標ではなく、理想とする未来への意志やイメージのことである。数値目標にとらわれると、数字で表れないものに気づかなくなってしまう。数字の危険に陥らず、一人ひとりの暮らす世界そのものであるビジョンを真摯に思い描けば、自分の理想がすべての人にとっての理想でないことにも当然思い至るだろう。そのように考えていくことで、自分の考えたビジョンに対しても謙虚でいることができる。
ここで、広義の編集の例を挙げてみよう。
秋田県の日本酒「雪の茅舎(ぼうしゃ)」を造っているのは、齋彌(さいや)酒造店だ。そこで酒質の責任者である杜氏を務める高橋藤一(とういち)氏は、これまで酒造りに欠かせない工程の一つとされていた櫂入れ(かいいれ)に疑問を持った。櫂入れとは、発酵を均一にするために酒を掻きまわす作業である。独自の実験を繰り返した結果、櫂入れの工程が不要であることを実証し、微生物の対流に任せた自然な酒づくりを成功させた。
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