日本では起業が難しいという指摘を踏まえて、日本経済を改革する必要性が盛んに言われはじめてから、もう20年以上が経つ。ところがいまだに日本はシリコンバレーのようにはなっていない。
この原因を考えるうえでまず注目してほしいのが、アメリカにおけるベンチャー企業の隆盛は1980年代、アメリカの製造業を脅かしはじめた日本企業に対する官民一体の国家戦略によるものだということだ。
シリコンバレー化を提唱する日本の政策は、アメリカの国家戦略にならったものが多数を占めている。その改革案のひとつに、大企業の技術者・研究者による起業の促進があるのだが、日本とアメリカでは起業の背景が異なる。ゆえにそのまま参考にすることは難しいだろう。
そもそも特許データをもとに分析した世界の革新企業・機関トップ100を見てみると、2015年に日本企業はアメリカ企業を2年連続で抜き、世界最多の40社が選出されている。日米の人口や市場規模を比較して考慮すると、日本のイノベーションの力は世界に冠たるものがあるといっていい。
日本で論じられているベンチャー企業の振興は、もっぱらイノベーションの促進を意味している。だがイノベーションとは、技術シーズの創出から事業化までの過程全体を指す言葉だ。ベンチャー企業はあくまでそのなかの事業化の部分を担うだけである。
技術シーズの事業化を促進したいのであれば、ベンチャー企業の振興もいいだろう。だが事業化の振興は、技術シーズ創出の促進とイコールではない。ここをはっきりさせておかなくては、いつまでもボタンの掛け違えが起こったままだ。
シリコンバレーの印象が強いからか、アメリカを起業大国に位置づける論客は多い。だが1980年代以降、アメリカの開業率は下落を続けており、この30年間で半減している。
とりわけIT革命期の1990年代になると、30歳以下の起業家の比率は低下あるいは停滞し、2010年以降は激減してしまった。過去40年間にわたって低い生産性を記録し、画期的なイノベーションも起きていないため、アメリカ経済は大停滞している状態である。
加えて、アメリカの典型的なベンチャー企業の実態は、世間一般で思い描かれているイノベーティブなハイテク企業ではない。「人の下で働きたくない」という目的で起業した40代の既婚白人男性が多くを占め、起業から7年以内に新規ビジネスが軌道にのるのは全体の3分の1程度だ。
そもそもハイテク・ベンチャー企業は、アメリカ政府の軍事産業育成政策により誕生したものである。ITはベンチャー企業が創造したのではなく、政府主導による軍事政策の産物にすぎない。シリコンバレーにハイテク・ベンチャー企業が集積しているのは、アメリカが世界最大の軍事大国だからだ。つまり日本がシリコンバレー化を果たせず、ベンチャー大国になれない最大の理由は、軍事大国ではないからなのである。
ベンチャー・キャピタルは、ベンチャー企業の創業から成長過程において欠かせない資金供給源とされている。しかしその実態を見ていくと、供給源として占める割合はわずかなものだ。
3,400冊以上の要約が楽しめる