お金を手にしたときと、食べ物でも趣味でも自分が好きな物を手にしたときの脳の反応はとてもよく似ている。脳神経の報酬系が反応し、快楽のもととなるドーパミンが大量に放出される。また、お金に限らずクーポン券のようにお金の代わりになるものであれば、脳は同様の反応を示す。
ただし、ドーパミンが放出されるのはその場でお金を獲得したときに限る。お金をこれからもらえるという「見込み」の場合、脳はまた別の部位が活性化する。つまり、人間の脳内では現物のお金とお金の見込みを別物だと認識している。
ここで注目したいのは、現金を手に入れたとしても、実際には報酬と消費が直結していないことである。現金にあるのは、それで何か欲しいものを買えるという約束にすぎない。このことから、人間は「お金そのもの」に魅力を感じ、惹き寄せられ、手にしたいと感じていることがわかる。つまり、心理的にはお金と麻薬は同じなのである。
一方で、欲しいものが買えるという手段であるからこそ人はお金を欲しがるのだともいえる。
英国の心理学者、ステファン・リーとポール・ウェブリーは、お金には上記の麻薬としてのお金と、手段としてのお金と、両面あることを示唆している。
そもそも、わたしたちとお金の関係はどこから始まるのか。
著名なイタリア人心理学者、アナ・ベルティとアナ・ボンビの研究によると、4~5歳の子供たちは全般に、お金がどこから来るのかわかっていない。意外なことではないが、ほかの調査研究も合わせて推測されるのは、子供たちが主に、お金に関する情報を親から得ているということだ。
子供時代には、お小遣いをもらう経験を通じて、お金のやり繰りを学ぶ。算数が得意だと、寄付したり貯金したりしていることが多いことが米国の調査でわかっている。つまり、親が子供にお金についてきちんと話し、計算力が身につくよう励ましてやることは、将来子供が大人になってからお金と健全につきあうための土台になるのだ。
お金とわたしたちの関係の終わりは、わたしたちの死ぬときになるが、驚くべきことに、お金は死についての思いと強く結びついている。
ポーランドの心理学者、トマシュ・ザレスキウィッツが行なった、死への不安感を測る質問に答えてもらう実験において、事前に札束を数えたグループは、そうしなかったグループよりも不安感が少なかった。また、ザレスキウィッツは、どのくらいのお金があればお金持ちか、という質問に答えてもらう実験も行なった。事前に死についての恐怖についてアンケートをとったグループは、歯医者に行く恐怖についてアンケートをとったグループよりも大きな金額を挙げた。これらの調査からは、人は死について思うとき、お金を使うことよりも持っていることで慰められるということがわかる。
「損をしているという意識」。これこそが、人がお金を扱う中で直面する最も強力な心理的な反応である。
例えば、人はいったんお金を手にすると、それを使ってさらに稼ぐより、ずっと側に置いておきたいと考える。行動経済学者ダニエル・カーネマンによる、次の2つの設問を考えてみよう。
まず1000ポンドを貰ったとして、選択肢が2つ与えられる。1つは、コインを投げて勝てばもう1000ポンドを貰える。もう1つは、何もせずに500ポンドを貰える。この設問に対して、大半の人は確実性を優先し、何もせずに500ポンドを貰う選択肢を選ぶ。
次の設問は以下のとおりだ。はじめに2000ポンドを貰い、選択肢が2つ与えられる。1つは、コインを投げて勝てばそのまま、負ければ1000ポンドを失う。もう1つは、何もしないで500ポンドを失う。この場合、コインを投げたいと感じる人が多いのではないだろうか。
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