百円の男 ダイソー矢野博丈

未読
百円の男 ダイソー矢野博丈
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百円の男 ダイソー矢野博丈
出版社
出版日
2017年10月11日
評点
総合
3.7
明瞭性
4.0
革新性
3.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

「ダイソーは潰れる、潰れる」「一歩先のことは、ワシには見えない」「村のため池に誰かが浮いていたら、ワシだと思ってくれよ」。これらはすべて、ダイソー社長、矢野博丈の言葉だ。未来を見据えて常にポジティブ、堂々と人をさばくという、世間にありがちな社長の姿と、矢野はかけ離れている。

一〇〇円ショップの巨大チェーン、ダイソーのビジネスモデルもかなり特徴的だ。一円の利益しかない商品をとにかくたくさん売る。一個の商品は一〇〇万個仕入れるそうだ。

矢野とはどういう人なのだろう。そして彼が創業した大創産業とはどのような企業なのだろう。本書は、一〇年以上にもわたって回数を重ねられた矢野へのインタビューや、大創産業の主要な社員たち、矢野の家族、小学校の同級生らへの取材をもとにしている。矢野の生い立ち、一〇〇円の商売を始めたきっかけ、商売の発展と企業としての成長、矢野ならではの人材の育て方などについて、歯切れよい文体で描く。

商売が軌道に乗るまでの浮き沈みの激しい人生は、あまりにハラハラさせられるので続きを読み進めずにはいられない。また、型破りかつ人情味あふれる人柄が垣間見えるエピソードの数々にも、思わず引き込まれてしまう魅力がある。

一息に読み終えたあとには、ダイソーのセオリーにとらわれない成功のかたちから、読者はさまざまな気づきを得ることになるだろう。

ライター画像
熊倉沙希子

著者

大下 英治(おおした えいじ)
1944年、広島県に生まれる。広島大学文学部を卒業。週刊文春記者をへて、作家として政財官界から芸能、犯罪まで幅広いジャンルで旺盛な創作活動をつづけている。
著書には『十三人のユダ 三越・男たちの野望と崩壊』(新潮文庫)、『実録 田中角栄と鉄の軍団』シリーズ(全三巻、講談社+α文庫)、『昭和闇の支配者』シリーズ(全六巻、だいわ文庫)、『トップ屋魂 首輪のない猟犬』『リクルートの深層』『電通の深層』(以上、イースト新書)、『安倍官邸「権力」の正体』(角川新書)、『石破茂の「日本創生」』河出書房新社)、『高倉健の背中 監督・降旗康男に遺した男の立ち姿』(朝日新聞出版)、『孫正義に学ぶ知恵』(東洋出版)、『落ちこぼれでも成功できる ニトリの経営戦記』(徳間書店)、『逆襲弁護士 河合弘之』『専横のカリスマ 渡邉恒雄』『激闘!闇の帝王 安藤昇』『永田町知謀戦 二階俊博と田中角栄』『永田町知謀戦2 竹下・金丸と二階俊博』(以上、さくら舎)などがある。

本書の要点

  • 要点
    1
    挫折の多かった矢野の人生で初めてうまくいったのが、トラックでの移動販売だった。値つけが間に合わなかったある日、客に対して、どれでも一〇〇円でいいと言ったのが、一〇〇円均一の商売を始めるきっかけになった。
  • 要点
    2
    一〇〇円の商品を売るときでも、「安物買いの銭失い」といわれるのが嫌で、客に喜んでもらえるようぎりぎりまで原価を高くした。「お客様第一主義」にもとづく品物の良さは、ライバル企業に打ち勝つ力となり、商売は大きく発展していった。
  • 要点
    3
    ダイソーの売り上げを支えるのが商品の魅力だ。七万アイテムもあるというダイソーの商品のうち、雑貨の自社開発商品が九九パーセントを占める。

要約

つきまとう貧乏と苦労

体力には自信あり
vadimguzhva/iStock/Thinkstock

「矢野博丈」は改名した名前だ。親からもらった名前は「栗原五郎」という。

矢野の祖父は広島の大地主であったが、莫大な借金を背負って没落した。さらに、戦後の農地改革で、栗原家は五反百姓に転落してしまった。「人生は絶対にうまくいかない」という矢野の確信めいた思いはここから生まれたという。父親は医者だったのだが、裕福な暮らしとは縁遠く、常に貧乏だった。

矢野は広島市の高校に進学すると、市内で育った子どもたちから広島の田舎の言葉をバカにされるようになる。その様子を案じた叔父の勧めにより、ボクシングを習うようになった。矢野はボクシングに向いていたようで、高校三年になると一九六四年に開催される東京オリンピックのバンタム級強化選手に選ばれるほどになった。一時はボクシングの選手を目指そうとも考えたが、闘争心を上まわって恐怖心があることに気づき、大学へ行くことにした。

大学では勉強よりアルバイトに明け暮れていた。矢野は働くことが好きだった。妻の勝代とは、学生時代に知り合って結婚をした。このときに、勝代の苗字である「矢野」になる。将来商売で生きていくことを想像して、屋号とするのに言いやすく、親しみやすい苗字がいいと思ったのだ。「五郎」という名前は、のちに起業をしたとき、貫録を出すために、姓名判断の先生に相談して「博丈」と変えた。

挫折続きの末に訪れた転機

大学を卒業した矢野は、妻の実家の稼業を継ぐことにした。勝代の実家は、広島の尾道市で有名な魚問屋を経営し、養殖業にも参入していた。しかし、そこにはたいへんな状況があった。義父に頼まれて両親や兄たちに七〇〇万ほど借金をしたが、経営は上向かない。家業は潰れかけているのに義父は拡大路線を曲げず、さらに借金を要求してくるので、矢野は勝代と二歳半になる長男と、夜逃げのように尾道を離れた。

その後しばらくの矢野の人生は、波乱万丈そのものだ。百科事典のセールスマンになるものの、まったく売れずに挫折を味わう。ちり紙交換で成功したと思ったところで、ある一家の養子になるようにと広島に呼び戻されるが、その家族の、矢野の子どもへの態度に疑問を感じて家を飛び出す。

ところがある日、日用雑貨の移動販売に出会い、その道に入ったことが矢野の転機になった。「大阪屋ストアー」というその店は、大阪でトラックに荷物を積んで、港町を転々としながら公民館などを借りて移動販売をしていた。最終的に親方と決裂して独立することになったが、商売はうまく進んだ。

矢野の商売はバカ正直だった。親方が場所代を少なめに設定していた一方で、矢野は多く売れたと見栄を張って、場所代を多くはずんでしまうことしばしばだった。場所を提供してくれた側の「よく売れましたねえ」という言葉がうれしくて仕方なかったのだ。正直な「お客様第一主義」の商売もリピーターの獲得につながり、矢野は知らない間に多くの人たちに愛されるようになっていた。

【必読ポイント!】夫婦で一番売るトラック売店

思わず口にした「一〇〇円」
Pixelci/iStock/Thinkstock

矢野は移動販売の商売で独立し、昭和四七年に「矢野商店」を創業した。けれど矢野は弱気で、「この商売は、いずれ潰れる」と思っていた。会社の規模を大きくすることには興味を持たず、「夫婦で一番売るトラック売店」という身近な目標を立てた。自分の親にこれ以上心配をかけたくなかったので、粗利を追求するのでなく、原価が高くて客に喜んでもらえる商品をコツコツ売る道を選んだ。

矢野は、二トントラックに商品を積んで移動し、ベニヤ板に商品を並べて売っていた。

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要約公開日 2018.01.18
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