近年、世界を代表する起業家が次々と名乗りを挙げて宇宙への進出を試みている。彼らの注目する宇宙産業の市場規模は過去10年間で倍増した。米国の業界団体SIAの発表によると2016年は3391憶ドルの市場規模だという。
従来、宇宙プロジェクトは国家主導型で進められてきた。しかし、それが近年では民間主導型の宇宙開発の加速が目立つ。特に最近では、第4次産業革命と呼ばれるあらゆる産業でのデジタル化やIoT化の進展に伴い、新たなテクノロジーを宇宙産業に適用すること、そして宇宙技術を活用することに関心が集まっている。
現在、世界の宇宙産業には宇宙関連企業に加えて、IT、エレクトロニクス、ロボティクス分野などの異業種企業が相次いで参入している。宇宙産業内外の技術が絡み合うことで「NewSpace」と呼ばれる新しい時代の流れが誕生した。ヒト・モノ・カネが集まる一大産業へ発展しつつある、それが世界の宇宙産業である。
宇宙産業の歴史を少しさかのぼると、宇宙へのアクセスを目標とするベンチャー企業が多く創業されたのは2000年代初頭のことだった。今世界が注目する電気自動車テスラの創業者イーロン・マスク氏も、この時期に宇宙ベンチャー企業スペースX社を立ち上げている。
2000年代後半以降になると、小型衛星、衛星ビッグデータ、衛星インターネット、宇宙旅行、宇宙ホテル、資源探索など、宇宙へのアクセスが可能であることを前提に、宇宙という場を活用しようとするベンチャー企業が増えてきた。これらの企業は、人工知能、機械学習、ロボティクスなどの技術の宇宙への適用を狙う。
こうした流れを受け、資金力のある大企業も宇宙分野を魅力ある新たな投資先として興味を持ち始めている。ここ10年間で、民間からの投資金額は累計で1兆円を超えた。
宇宙ビジネスの市場は大きく6つのセグメントに分類することができる。
1.宇宙へのアクセス:ロケットや宇宙機の開発・製造に加え、打ち上げサービスを指す。全ての宇宙ビジネスが宇宙へ到達しないと始まらないことを踏まえると、その根幹となる市場である。
2.衛星インフラの構築:衛星の開発・製造、軌道上での運用を中心とする市場である。市場は大型衛星と小型衛星に分類でき、近年の傾向として大型衛星では地上の通信技術との競合や連携、小型衛星では、数百、数千機を打ち上げて連携させ、宇宙に新しいインフラを構築しようとする試みが見られる。
3.地上における衛星およびデータの利活用:地上にいる人、産業、社会が宇宙技術を活用する市場である。従来はナビゲーションサービスがほとんどだったが、近年ではデジタル化やIoT化の進展にともない、位置データを活用した機器や機械の自動化などの開発が進んでいる。
4.軌道上サービス:スペースデブリと呼ばれる宇宙ゴミの監視や除去をするサービスや国際宇宙ステーションにある科学実験設備のレンタルサービスなどがある。
5.個人向けサービス:高度100キロメートルまでの弾道宇宙旅行を始め、国際宇宙ステーションでの滞在、月までの旅行など種類は様々である。
6.深宇宙探索・開発:月や火星など遠い惑星の開発をめざす。地球環境やエネルギー問題が人類の存続に与える影響を見据えて、宇宙空間での長期的な生活や宇宙で働くような世界の実現を狙う。
6つの市場の中で、宇宙ビジネス発展のための前提的存在となる市場が「宇宙へのアクセス」である。この市場には、自国衛星などを打ち上げる政府の需要と、通信衛星の打ち上げなどの民間の需要がある。
ビジネスとしてのロケット打ち上げにおいて、主な需要は通信・放送衛星を静止軌道(赤道上空高度約3万6000キロメートルの軌道)に投入することである。この市場では、これまでアリアンスペースという欧州の企業が50~60%も市場を占有するという寡占状態だった。
しかし、今その歴史に風穴を開けようとしている企業がある。それが、近年急激な存在感を表しているイーロン・マスク率いるスペースX社だ。2015年には、静止衛星の打ち上げ受注実績において、アリアンスペース社の14件に対し9件と迫る勢いである。
スペースX社の強みはいくつもあるが、中でも特に注目されているのは使用済みロケットの再利用である。2017年3月には、2段式のロケット内、1段目に使用済みロケットを再利用した大型ロケット「ファルコン9」の打ち上げに初めて成功した。これを皮切りに、2018年は12回もの再利用による打ち上げを計画しているという。
個人を対象にしたサービスの1つが宇宙旅行である。宇宙旅行はいくつか種類に分けられ、無重力状態を数分間体験する弾道宇宙旅行、国際宇宙ステーションでの滞在、そして遥か遠い月や火星までの旅行などがある。
この市場でもスペースX社の存在感が際立っている。イーロン・マスク氏によると、2018年には民間人2人を対象とし月への周回旅行をするという計画が立てられているという。このプロジェクトが実現すれば、人類が地球の軌道外に出るのは1972年のアポロ17号以来となる。
一方、宇宙旅行が可能になる時代が近づいてきたことを背景に、宇宙ホテル建設を計画する企業も現れ始めている。この計画に積極的な姿勢を見せている会社は、ホテル事業で成功したロバート・ビゲロー氏創業のビゲロー・エアロスペース社、また商業用の宇宙ステーション建設をめざすアクシオム・スペース社がある。
ビゲロー・エアスペース社は、2020年を目標に宇宙ホテルとしても活用可能な商業宇宙ステーションの建設を予定している。また、同じ年にアクシオム・スペース社も、生活の場となる最初の居住モジュールを国際宇宙ステーションに連結させることを予定している。
スペースX社CEOのイーロン・マスク氏。最近はメディアに取り上げられることも多くなった。そんな彼の宇宙産業における壮大なビジョンは「人類を複数惑星に住む種族にすること」である。
これまでの功績として、2008年に初めてロケット打ち上げに成功すると、NASAとの間で総額40億ドル以上の契約を獲得した。
スペースXの技術が使われるのは主に次の3つの市場だ。1つ目は国際宇宙ステーションへの物資輸送サービス、この市場の主要顧客はNASAである。最近の情報によると、2019年から2024年の間で、最低6回の打ち上げを約束する契約を交わしたと報じられている。スペースXにとってNASAとの契約は、必要不可欠な収益源だ。
2つ目は、各国政府や民間衛星通信・放送事業者を顧客とする商業打ち上げサービスである。商業打ち上げ市場は、静止通信・放送衛星の打ち上げが主であり、この市場でも近年受注の数を増やしてきている。
3つ目はスペースXが2016年に初めて参入した市場、安全保障衛星の打ち上げサービス市場であり、米軍を主要顧客とする。2016年に次世代GPS衛星の打ち上げ契約(8270万ドル)を獲得、2017年は2機目の打ち上げ契約(9600万ドル)を獲得した。受注成功の大きな要因は打ち上げコストの安さだ。米空軍のスペース&ミサイルシステムセンター長のコメントによると、他と比較してスペースXの打ち上げ費用は40%も安いという。
アマゾンの創業者ジェフ・ベゾス氏は、2000年に宇宙ベンチャー企業ブルーオリジンを創業した。
彼はこれまでに5億ドル以上の資金を宇宙ビジネスに費やしたと報じられており、今後もアマゾンの株を売り、毎年10億ドルを宇宙開発にあてると公言している。
ブルーオリジンの成果としては、「ニューシェパード」の打ち上げ成功が挙げられる。ニューシェパードは高度100kmまでの宇宙旅行を目的とした垂直離着陸式ロケットで、その2号機が2015年11月、2016年1月、同年4月に目標地点到達、そして地上への着陸を成し遂げている。なお、これらの打ち上げは全て同じ機体を打ち上げた再利用飛行および着陸の成功だったという点にも注目したい。
一方、近年注力しているのが、商業通信衛星の打ち上げや有人宇宙飛行を目標とした、BE-4エンジン搭載大型ロケット「ニューグレン」の開発だ。そして、このエンジンもロケット同様再利用をキーワードとしており、ベゾス氏によると100回の再利用を想定しているとのことだ。
ベゾス氏が抱くビジョンは、「数百万人が宇宙で暮らし、働くこと。宇宙を見据えた文明にすること」である。彼は、「地球にある資源を守るために重工業は地球の外に移動させ、地球は居住や軽工業用の地域として使うべき」と力説する。
今や20億人超のユーザーを超えるSNS最大手のフェイスブック。その生みの親がマーク・ザッカーバーグ氏だ。宇宙産業において彼は、衛星、ドローン、AI(人工知能)などの最先端技術を使って地球のあらゆる場所にインターネットインフラを構築するという構想を膨らませている。
マーク・ザッカーバーグ氏は2013年にノキア、エリクソン、クアルコム、サムスン電子など、情報通信に関連する企業とともに「Internet.org」を設立、インターネットが満足に利用できていない40億人に向けたインフラ提供をめざしている。同社の発表によると、過去3年間の活動の結果、新たに2500万人がインターネットに接続することが可能になったとのことだ。
その後、2014年に「Connectivity Lab」というチームをフェイスブック社内に立ち上げた。このチームは、ドローン、衛星、レーザーを駆使することで、地理的条件に左右されることなくインターネット接続を可能とするための研究をしている。
ザッカーバーグ氏には、ドローンや通信技術を通信事業者に提供することで、携帯電話網の範囲外にいる人々がインターネットに接続できるようにしたいという思いがある。その手段として、高度1万8000メートルを3~6カ月飛行可能なドローン「アクイラ」を開発、これにレーザー技術を組み合わせたインターネット接続計画を発表した。2016年6月には、アクイラの遠隔操作による約96分間の飛行に成功。今後は、夜間飛行のための電力確保、また飛行中の電力消費量の抑制を課題としている。
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