毎年3月にアメリカのテキサス州オースティンで開催される、巨大なビジネスフェスティバルSXSWは、数多くのスタートアップが斬新なサービスや製品を発表する場でもある。10年以上先を見据えた起業家たちの発想に注目することで、今後のイノベーションの予兆を感じ取ることができる。
例えば、動物を飼育しないで人工的に肉や卵、ミルクを生産し提供する、「細胞農業」の研究が進んでいる。すでに複数のスタートアップがたちあがっており、巨額の資金を調達している。
また、オランダの大学が発表した、牛の筋細胞から培養した「培養肉」を使ったハンバーガーも話題になったが、手頃な価格で提供する技術は確立されていない。培養肉の開発は、人口増加に伴う食糧危機が背景にあり、畜産業のコスト上昇の観点からも注目されている。また、欧米に根づく動物愛護の精神からも評価されているという。
しかし培養肉に対する消費者の不安感が大きいため、これを払しょくするための取り組みは必要だ。そのため、食品の良さや魅力ある調理法を発信する、「培養肉マイスター」とでも呼ぶべき職人が、今後登場するかもしれない。
現代の食の課題に、食品流通の透明性や安全性ということがある。透明性については、ITによる「トレーサビリティ」で担保するという対策があるが、さらに透明性や安全性を高めようとする起業家がいる。
日米混合のチームである「カカシ」社(KAKAXI, Inc.)は、気温、湿度、日射量などのセンサー内蔵型カメラ「カカシ」を農場に設置し、農家が農場をモニターできるシステムを構築している。消費者は、同社が提供するスマートフォンアプリから農作物の育っている過程を確認でき、農家の人となりもわかるので、安心して質の良い農作物が買える。「カカシ」を使うことで、農家は消費者と食の楽しみを共有する「コミュニティファーマー」としてスタートを切ることができるだろう。
さらに、アメリカでは、大型トレーラーの中で水耕栽培を行い、都会で野菜を生産するビジネスが生まれている。LEDライトの波長を変えて、レタスやケール、バジルなど様々な野菜を育てることができる。管理は完全自動化されており、4日間で約272キログラムの野菜を収穫できるという。この移動農場は、ニューヨークですでに農業起業家たちに利用されはじめている。大都市で野菜を育てる人と、透明性の高い野菜を選ぶ人とのコミュニティが、すでに生まれている。
10年後の便利な交通インフラとして注目されているもののひとつに、超高速交通「ハイパーループ」がある。これは、著名な起業家であるイーロン・マスクが構想を発表した、金属チューブ内を最高時速1200キロメートル超でポッドが移動するという乗り物だ。
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